utpr(中・長編)

□家政夫トキヤさん
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一ノ瀬トキヤは偶然の奇跡に感謝した。

「だって……"あの"一十木音也の家で働くことができるなんて…本当に夢じゃないんですよね!?!?」
「…少し落ち着いたらどうだい、イッチー?あくまで仕事なんだからその辺の分別はつけないと…」
「わかっていますよ、それくらい…でもそれでもおさえられない思いというのもあるでしょう…これはどこかの聖川さんではありませんが心のダムではせき止められないんですよ…!」
「おい一ノ瀬今何か言わなかっ「いいえなにも」

トキヤがこんなにも興奮しているのには理由がある。3日前のことだ。

♢♢♢♢

「家政婦のアルバイト…ですか…」
「ああ、そうだよ。まあそうはいっても夏休みの1ヶ月の間だけだけどね。」

トキヤは早乙女大学に通う2年生である。次の週から夏期休業だという時に友人である神宮寺レンからこの話を持ちかけられたのだ。

「それで、なぜその話を私に?私以外でももっと適任が……」
「それがね、イッチー。そのアルバイト先があの一十木音也の家って言ったらどうする?」
「!?」

一十木音也というのは今を時めくシャイニング事務所期待の新人アイドルだ。運動神経、演技力共に申し分なく、歌唱力は高いとは言えないがこれからかなり伸びてくることが期待される……アイドルになるために生まれてきたような天才だった。

実はトキヤはそんな音也の大ファンだった。CDは初回版と通常版を買うのは当たり前であったし、ライブも必ず参戦している。彼のでている番組も欠かさずチェックし、部屋には音也のグッズで溢れかえっている程だった。

「ほ、本当に…?今日はエイプリルフールだとかドッキリだとかじゃなくて」
「勿論さ!その一十木音也のとこで働いてる家政婦がケガで入院したみたいでね。退院するまでの間の代わりを探してほしいって頼まれたんだ。イッチーなら喜んでやってくれそうだと思ったんだけど」
「やりますいえ是非やらせてください」

勿論トキヤの返事は即答だった。

♢♢♢♢

そして夏休み。トキヤはレンから音也の住所を聞き、そこへ向かうことにした。家政婦を雇うくらいなのだからどんな豪邸に住んでいるのかと思ったが、着いてみると、案外普通のマンションのようだった。トキヤは恐る恐る部屋番号をプッシュしインターホンを鳴らす。

『はいはーい』
「っ…!あ、あの…今日からそちらでアルバイトをさせていただくことになっている一ノ瀬という者ですが……」
『ああ…一ノ瀬トキヤ、だよね?レンから話は聞いてるよ!とりあえず、あがって』
「はい」

トキヤはマンションの中に入り音也の部屋を目指す。彼は最上階に住んでいるらしかった。

「ついに…音也に会えるんですね」

今まではそれほど実感は無かったがいざとなると緊張してくる。ミーハー心はそう簡単に抑えられるものではなかった。エレベーターが最上階まで着く時間がやけに長く感じられた。

最上階まで着くと、部屋の前に音也らしき人物が立っていた。

「あ、トキヤー!こっちだよ」
「一十木さん!あの、今日から1ヶ月よろしくお願いします」
「うんうんよろしく!…けどさ、その一十木さんってやめない?トキヤ見たところ俺と同い年くらいだし…」
「ええ、確かに私は一十木さんより1つ上なだけですが…」
「ん〜じゃあ音也って呼んでよ。さんもいらないからさ」
「ですが!雇い主である一十木さんを呼び捨てなんて」
「じゃあその雇い主である俺の命令ってことで。いいね、トキヤ」
「……ええ、わかりました。音也」

トキヤは若干不服そうに頷いた。
その後は家の中に入り、仕事の説明などを受けた。主な業務は掃除と洗濯、それに食事の用意だった。

「ご飯作らなくていいときとか帰りが遅くなる時は連絡するからさ。昼は仕事であまりいないし…朝と夕方からだけ来てくれれば大丈夫だよ。そんなにトキヤの仕事は多くないけど、もしあれならここで1日過ごしててもいいから。」
「はい、わかりました。ちなみに今日は…」
「あ〜今日は大丈夫。明日からお願いしてもいい?」
「はい。では、今日はこれで…」

トキヤがそう言うと音也は律儀に彼をマンションの外まで見送った。その事にまたしてもトキヤは浮かれつつ、帰路についたのだった。


→to be continued...

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