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□嫉妬
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──嫉妬



俺の幼馴染み、橘真琴は現在モテ期らしい。
と言っても、真琴がモテるのは今に始まった事ではない。クラスの女子が真琴をじろじろ見て、きゃーきゃー騒いでいるのも知っているし、少し会話をしただけで歓喜に満ち溢れている女子だって何人もいる。
ただ、最近はそのモテ具合が異常だ。酷い時は1日、たったの1日で3人に告白される程に。
もちろんどうして真琴がこんなにもモテるのか理由は明白だ。
水泳部を作り、数々の賞を取ったことで岩鳶高校内ではとても人気な部活となり、元々真琴のファンだったらしい女たちが騒ぎ出し今では毎日真琴目当てに部活動見学にやってくる女がいるほどだ。水泳部の成績と真琴のモテ期は比例しているらしい。

要するに、みんな真琴の見た目に惚れている。それだけの話だ


そして今日もまた、真琴は呼び出されていた
本当なら真琴と一緒に帰るはずだったけど、呼び出されてしまっては仕方がない。待っているのは面倒くさいし、一人で帰ることになった。

真琴が女に呼び出されると、なぜか心臓の辺りがモヤモヤする。毎回そうだ。

(病気、か…?)

左胸にそっと手を当て、それはないか…とため息をついた。

…本当は理由なんてわかってる。
それでも、認めたくないから。
どうせなら本当に病気であってほしいくらいだ。

もし真琴に彼女が出来たら
最近はそんなことばかり考えている。
真琴に彼女が出来たら、真琴の隣はもう歩けない。真琴を独占することも出来ない。彼女にとって、俺はただの邪魔者でしかないから。
もしそのときが来たとして、俺は真琴と彼女の幸せを願えるだろうか。

ちがう、幸せを願わなきゃいけないんだ

この感情に名前を付けることもなく

この感情を封印しなければならない


(めんどくさい…)

人間関係はどうしてこんなに面倒くさいんだろう。ストレスばかり溜まる。
ストレスが溜まると、俺は決まって水に飛び込んでいた。
でも、そんな気分じゃない。
頭の中がごちゃごちゃで、今にも倒れそうだ。
あれもこれも、全部真琴のせいだ。
真琴のせい…真琴の…




コンクリートの地面に、小さな染みが出来ていた
雨?
そんなわけがない、空は快晴だ
…驚いた
俺は、泣いていた
泣きたくて泣いているわけではない
勝手に涙が溢れてくるのだ
勿論俺は泣き虫ではないし、滅多に泣かない
これは本当に病気かもしれない

そう思いながら涙を拭っていると、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえてきた


「っ、はぁ…っ、ハル…っ、まだこんなところにいたの…?」

真琴だった
まだ、と言われて辺りを見渡すと、またしても驚いた
学校を出てからまだ数百メートルほどしか進んでいなかったのだ


「どうしたの?具合でも悪い……って、え、ハル…?」

遙の顔を覗き込んできた真琴は、目を見開いていた
それもそのはず、遙の目からは涙が流れているからだ


「なんで、泣いてるの?」

「知らない、目にゴミでも入ったんだろ」


目にゴミが入ったにしては涙の量が多過ぎだが。
真琴もそう思ったのか、納得のいかないといった顔をしている


「とりあえず、帰ろ。話はその後ね?」

そう言って俺の腕を強く掴んだ真琴を見て、この名前のない感情を、この後真琴に伝えなければならないのだと思うと、苦しくて仕方がなかった。
きっと優しいこいつのことだ、ドン引きをしたりはしないだろうけど。
それでも、受け入れてもらえる保障なんてどこにもない

(めんどくさい)

面倒ごとは、嫌いだ
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