橙少女と戦士たち

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「さて、と」
部屋に入ってすぐ、白い手がもったいぶって咳をした(ように橙乃には見えた)。

「君は僕の事を知っているかい?」

『……いや』


勿論、目の前の白い手が誰であるかなど、この世界に来たばかりである橙乃に分かる訳もなく。
辛うじて先程彼女を案内した青年の名くらいは知っているが、それ以外の戦士たちはおろか、この世界に何があるのかさえ、基本的には知らされていない。

この世界の存在だって、一ヶ月前にやっと知った程だ。
そもそも大した資料もなく、「これからこの世界に行くから準備しろ」と言われたって並大抵の人間は着いていけないだろう。
それに食い付いていけるのが、ある意味彼女の強さなのかもしれないが。


「まあそうだよね。じゃあ、自己紹介からかな。……はじめまして、僕はマスターハンド。こう見えてこの世界の創造主なんだ」

その名を聞いて、橙乃は驚愕した。
この世界を創造し、さらには学園都市ともたった一人で協定を結んだ神。
それがこの白い手だと言われてああ成程、と納得出来る奴がこの世にいるのだろうか。

……いや、いないだろう。


「え、そうは見えないって? …しょーがないなぁ、じゃあ一つイイモノ見せてあげるよ」

そう言って、白い手は悪戯っぽく笑い、人差し指と親指を勢いよく鳴らした。




―――刹那。
目の前が光に包まれる。


その眩しさに思わず目を閉じるが、それでも防ぎきれない程の光に橙乃は手を構えた。


「はいはい。もういーよん」

先程とはうって変わって、若々しい少年の声。
だが口調は変わらず、彼である事を示していた。

その合図に構えていた手を戻し、目を開けると。


「あれ、驚いた? 僕だよ、ぼく」

目の前には、銀髪の少年が佇んでいた。
整った顔立ちに、髪と同色の瞳。
純白のカッターシャツと黒のジーンズに身を包んだ彼は、写真に写っていたマスターハンド≠ニ完全に一致している。


「どう? これで信じるでしょ」

『……そうだな。信じてやる』


まあ、ここまでやられたら信じない訳にもいかないがな、と橙乃は呟いた。
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