橙少女と戦士たち
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覆い被さる木々の葉を押し除け、拓けた土地にやっとたどり着いた橙乃を待ち受けていたのは、湖上に聳(そび)え立つ城だった。
蔦(つた)の絡まるレンガ造りの西洋建築は、周囲の風景と相俟ってまるで童話の世界にでもいるように錯覚させられる。
そして、遥か上空に浮かぶスタジアム。
地上からではその全貌までは確認出来ないが、平たい台形で中心に埋まる紫色の鉱石を光輝かせている。
―――あれが、大乱闘スタジアムか。
橙乃が一目で見て分かる程に、其れはそこはかとない威圧感を放っていた。
そのスタジアムでは、今も誰かが闘っているのだろう。
爆発音や瞬く金銀の光線がこちらでも分かるくらいなのだから、相当激しいものに違いない。
これからそこで数々の戦士達と拳を交えるとなると、いつもは戦闘に興味の無い橙乃でも心の奥底から湧いてくるものはある。
あそこには一体何れ程の強者がいるのだろうか。
そして其れらの創造者であるマスターハンドは、如何なる人物なのだろうか……。
そう考えていると、今までの不快感や苛立ちが払拭されていくようだった。
先程より幾分か軽くなった足を動かし、橙乃は城へと続く橋を渡っていく。
***
木製の扉を開けると、目の前に緑衣の青年が待ち構えていたかのように立っていた。
「やあ。君がミサキかい?」
よろしくね、手を握ってきた彼はリンクと言うらしい。
元々はある国の勇者で、平和を脅かす魔物たちを倒していたのだとか。
彼はそう言いながら、橙乃を一階のある一室へと誘った。
「多分、ここらへんにいると思うんだけどな……おーい、連れて来たぞー」
見掛けは単なる古い木製の扉。
他にも同じようなものが奥にも続いているというのに、此処を選ぶとは何かあるのだろうか。
橙乃にはさっぱり分からなかったが、別にどうでも良いので黙る事にする。
「はいはーい。今開けるよ」
内側から音も立てずに扉が開き、中から白い手が顔(恐らく)を出した。
そう、白い手が。
……待て、手が?と一瞬思考が停止しそうになったが、一応念の為に頬を抓っておく。
「ああ、君か。話は聞いているよ。さあ、入って入って」
また喋った。
当の本人は未だ一言も発せずにいる橙乃を気にも掛けていない様子で、まるで、おいで、とでも言うように手招く。
『……ああ、分かった』
後ろでまた会おうね、と手を振るリンクを一瞥し、橙乃は腑に落ちない表情で喋る手の元へ向かった。