□清純とスキンシップ
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「じゃあ、触るよ」

神妙な面持ちでそんなことを言われると変にドキドキするじゃありませんか。恐らくとても複雑な表情を浮かべているであろう私は黙って縦にひとつ、頷いた。
そして清純は宣言通り私にそうっと触れる。指先がゆっくりと頬の上を滑り、大きな手のひらで包み込まれるように撫でられた。慈しむような視線にたまらず目を閉じると清純は小さくああ、と声を漏らした。

「本物の■■だ…!夢じゃないんだね…」

「…大袈裟」

私が照れくさくてぽつりとそうこぼすのと同時に、清純が今までの壊れ物を扱うような触れ方をやめ、ぎゅっと抱きついてきた。その力の強さたるや、さすがテニス部だねと感嘆の声と悶絶の悲鳴を同時に上げてしまいそうなほど。

「ああ!この細い肩!柔らかい体!」

「うるさいんですけれども」

体に回された手がすりすりと背中や腰や、尻にまで這っていく。いつもならどこ触ってるんだと平手打ちするんだけど今日は…今日はまあ、許してやろう。これくらいのスキンシップなら。

「ああ、いいにおい、■■のにおい」

「恥ずかしいんですけれども」

次は肩口に顔を埋めて犬みたいにすり寄って、深呼吸するみたいににおい嗅いでる清純。突き放したい衝動に駆られるが、そんなに悪い気分だけじゃない。仕方なく、頬に当たる髪の毛のくすぐったさを楽しむことにする。

「この髪の毛も、さらさらしてていつまでも触っていたいよ」

「…そりゃ、どうも」

私の横髪を一束掬い、キスするみたいに唇を寄せられた。その後も優しい手つきで頭を撫でられ、なんだかむずむずする。気持ちいいけど、むずむずする。

「…久しぶりの■■だ…」

「たった一週間じゃない。しかも、離ればなれだった訳でもなし」

彼はなにをこんなにも感動した風なのか意味が分からない。たった一週間の間彼は私に触れないと自分で勝手に言い出して、それを勝手に達成して喜んでいるだけなのだから。
…詳細に語ると事の発端はちょうど一週間前、彼が他の女の子とデートしていたのを見かけただけのこと。そう、それだけのこと。清純が女の子好きなのは周知の事実だし私自身それを分かった上で付き合うことに対してオッケーを出したのだ。他の子とデートとは言えたかだかお茶をするくらいのことだし、キス以上のことをしている現場を発見すれば浮気と見なすけれど手を繋ぐくらいならまあ仕方ないと思ってる。それなのに彼は私が目が合うや否や血相を変えてこちらに来て少し引いてしまうくらい謝罪してきて、「俺はこの一週間女の子にも■■にも触れない罰を自分に課す」とか私に何の得も無い罰ゲームを発案した。
目をしばたかせて、どうぞご自由にとだけ答えると清純はもう既に激しく後悔している様子で。

「長かったよ…」

「そうですか」

で、今日。鬱陶しいくらい堪能されまくっている様子。…まあ悪い気はしないんだけども。一週間、一緒に帰ったり話したり買い食いしたりはしたけどもその間あんなにスキンシップが多かった男に一切、指先ひとつ触れられないというのは少しだけ寂しいというか物足りないと言うか…清純の事笑えないね。

「ね、ちゅーしてもいい?」

もう、してるし。ちゅ、と小さな音をさせて柔らかく頬に。そして前髪を捲られ額にも一つ。ドキドキして目を開けていられない。その瞼にも唇を落とされ思わず体が震える。

「…かーわいい」

「もう、いい?満足した?」

両肩に手を置かれ、私はそっと目を開けた。私を見つめる瞳が細くなった、それだけで彼が何をしたいか分かる。


「じゃあとりあえずあと一つ、ね」

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