□清純と夕日
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■■とのデート、久しぶりすぎて一日中ドキドキが止まらなかったんだ。今だってそう。■■がクラスでの話をたくさんたくさん楽しそうに話してくれているのに、大好きなその澄んだ声を聞き洩らさないようにしたいのに、君の事考え過ぎて頭に入ってこないなんて矛盾してる。

「…清純君?」

…傾いていく日が憎くてやるせない。今日のデートが楽しみで仕方なかったのに、こんなにも早く終わっちゃうなんて。きっと次のデートも取り付けるけれど、それを楽しみに授業とか色々頑張っても次もこんな風に夕方には寂しい気持ちになるんだ。学校が一緒だったらこんなに寂しかったり不安になったりそわそわしたりしないのかな。ずっと一緒にいられればこんなに胸を掻き毟りたいような衝動に駆られないのかな。

「…清純君」

繋いだ手に力が籠められ、その時ようやく彼女が俺の名前を何度も呼んでいることに気付いた。頭の端の方では■■が俺の事呼んでるって知ってたのに、君の事ばかり考えてて返事をするのを忘れていたんだ。

「あぁ、メンゴ、メンゴ。■■があんまりかわいいからぼーっとしてた」

言い訳のように聞こえるかもしれないけれど、本当にそうなんだよ。だからそんな困ったような顔をしないでよ。

「…ええと、ありがとう。こっちこそ、ごめんね、つまらない話ばっかり」

「つまらなくなんてないさ!■■の話なら何だって、楽しいよ。でも、さ、」

そんな楽しそうに俺以外のことを話さないでよ。そんな言葉をうっかり口に出してしまいそうになってしまう。
…だけどそんな風に思わずにいられないんだ。君は俺と学校が違って離れてても、そんなにたくさん話せるくらいの楽しいことがあるんだ。俺は君がいないと楽しいってあんまり思えないんだけど。

「でも?」

■■が小首を傾げて俺の言葉の続きを問うのに、俺は誤魔化しの効く台詞が思い浮かばない。もしかして俺ばっかりが君のこと好きなのかな。俺ばっかりがデートしたくて、触れたくて、独り占めしたくてたまらないのかな。

「…えっと…その、デートがそろそろ終わりだって思うと寂しくって…ごめん」

尻すぼみになる。でもこれも嘘じゃないよ。このままじゃ俺、君に笑顔でばいばいって手を振る自信無いんだ。その細い体を抱き締めて俺から離れるなって命令したくなる。こんな気持ちは初めてなんだ。今までいろんな女の子とデートしたりお話ししたりしてきたけど、君みたいに心から好きだって思える子は初めて。心の底から俺だけのものにしたいって思えるのは。

「…私も寂しいよ。だから、また清純君が暇なとき誘って、ね。部活お休みの時とか」

それも。昔付き合ってた女の子はみんな、もっと会おうとか、部活休んでよとか言ったものだけど、■■は言わない。もちろん俺にとっては■■と同じくらいテニスも大事だけど。瑠璃は俺がテニスが忙しくて会う時間少なかったらそれはそれで仕方ないってすんなり思えるの?その程度しか俺に会いたくない?そんなの、俺の我儘だって分かってるけど、でもね、もっと俺の事求めてほしいんだよ。

「うん、そうする」


こんなに好きで、どうしよう。好きで好きで仕方なくて、純粋に好きだって思えないくらい。
顔の見えない■■の友達に嫉妬するんだ。■■を楽しませる俺以外のものが気に入らないんだ。このデートを終わらせようとする夕日にすら悪意を感じるんだ。こんなのおかしいよな。

「清純君。大好きです」

そんな君の言葉も疑ってどれだけ好きかを問い詰めたくなってしまうくらい好きで堪らないけど、俺はわざとらしく表情を崩して嬉しいなあなんて笑う。ああ、橙色の光が憎くてしょうがないから笑顔を作る振りして目を閉じる。

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