夢
□清純と音楽
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電車に乗っていて程よく心地いい、と感じるのは1/fの揺らぎというもののせいらしい…というのをテレビで見たことをふと思い出した。何でだろう、眠くなってきたから夢と現の間でそんなどうでもいいことばかりを急に。
「もしかしておねむかい?」
「…んー、大丈夫」
今日のデートは少し遠出をしたものだから、いつもより疲れて、眠い。それとさ、すごく楽しかった時間の後の帰路はちょっと寂しいじゃない?だから現実逃避したくて、眠いんだろうか。どっちにしても彼と一緒にいる今はまだ寝たくないなぁ…。小さく頭を振って付きまとう眠気を吹き飛ばそうと努力。
「いいよ、寝ても。ついでに肩に寄りかかってくれたらラッキーかなー、なんて」
「…寄りかかるけど、寝ないよ」
体を傾けて清純の肩に体重を預ける。いつもなら電車でくっつくなんてことは恥ずかしくてしないんだけど、今は人も少ないし、何よりもう色々考えるのも面倒で。たまには素直に甘えてみるのも悪くないかなって。…疲れていても心の中でも言い訳しなきゃ気がすまない性分なのね、私。
「おっと、今日はやけに素直だね。大歓迎だけどさ」
おどけたような彼の声が好きで、少し口元が緩んでしまう。と、そこでゆっくりと停車。あと何駅だったかな。
「…そうだ、音楽でも聞く?」
「んー?うん、聞く」
がたん、ごとん。また電車が動き出して、引っ張られる感覚。清純は鞄の中から小型のデジタル音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを片方こちらに寄越した。何度かぽとりと取り落としながらも黄緑色のカナルイヤホンを右耳につける。同時に流れてくる曲調はずいぶんと聞き覚えのあるものだった。
「あ、これ、好き」
CMとかでもよく流れてる曲のアレンジ版、男性ボーカルの声が伸び伸びと広がって耳に心地いい。アレンジ版はアルバムにしか入ってなかった割とマイナーなやつだった気がするけれど。そこまで清純の好みではないはずだし。
「知ってるよ。■■ちゃんが好きなやつ、俺も聞きたくて入れたんだ」
なんて、くすぐったい台詞。これを言いたくて音楽の話題出したんじゃないかってくらいだ。このアーティストの声も好きだけども、清純の声の方が深く柔らかく私の心に刺さるわ。嬉しくて小さく笑う。
「…次は清純の好きな曲、聞きたいな」
こうやって少しずつ互いの好きを共有していくの、楽しいな。
最寄駅に着くまでの揺らぎの中でいくつの曲を聞けたかは残念ながらよく覚えていない。目が覚めたときそこは終点で、二人とも仲良くぐっすり寝ていたものだから。