□清純と花束
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「はい、これ!君にプレゼント!」

唐突に差し出された花束と眩しいほどの彼の笑顔を交互に見てから目を瞬かせた。黄色を基調とした花々を可愛らしいピンク色のラッピングでまとめてある。とても私の好みだし、もちろん貰えるなんて嬉しい。しかしこんな贈り物をされる理由が分からないことには気持ちよく受け取れないもので。記念日という訳でも無いし、誕生日でもない。何か特別なことをしてあげた記憶も無いし…。

「何があったの?どうして?」

思い当たらなければ本人に聞いてみればいい。が、清純はにこにこ笑って「プレゼントしたい気分だったんだ」とだけ。
…ああ、一気に裏がありそうな気がしてきた。普通ならまあ嬉しいありがとうと素直に受け取ってもおかしくないのかもしれないけれど、相手は彼だ、千石清純なのだ。軟派で軽くて冗談めかした愛の言葉がすらすら息をするように出てくる私の彼氏なのだ。女の勘が告げている。何か隠してるぞ、掘り下げてもいいことないぞと。

「そっか、そうなんだ。ありがとう、清純。で、どうして?」

だがしかしここで引き下がってあげないのが私。花束を優しい手つきで受け取って柔らかく抱き締めるように持ちながら首を傾げて彼に再度問う。存在を主張するように一際明るく華やかな薔薇の香りが漂った。

「…えっと、何か疑ってない?」

「何かって?」

「その…浮気的なこと?」

嫌だわ清純さん、分かってるじゃないですか。別に今更彼の浮気癖や女の子好きな性格を咎めることはしないしそんな彼でもいいから付き合っているのだけど、だからって隠されるのはちょっと気分悪いと言うか。隠しきるなら隠しきるで徹底、隠せないなら正直に話してと口を酸っぱくして言いました。中途半端が一番良くないんですよ。

「ふぅん、浮気?」

「してないよ!それはホント!神に誓って!」

「本当は?」

「本当だって!俺のこの真剣な目をよく見ておくれよ!」

両肩を掴まれ、じっと『真剣な目』で見つめられる。空を映したような瞳に自分の顔が見えた。あまりにも、まるっきり信じていませんよっていう顔をしていたから少しだけ表情を緩める。

「…うん、分かった。信じるよ一応」

「はぁ、君に疑われるなんてアンラッキー…」

眉をハの字に曲げて溜息をつく彼に、意地悪を言い過ぎたかしらなんて思ってしまう。…いや、私は悪くないけど。疑われる彼の普段の素行に問題があるのであって。

「…でもね、出来れば隠し事は無しにして欲しいかな。これ以上追及はしないけど」

もう諦めてそう言ってみれば、意外にも彼はうーんと唸った。そしてなだめるようにぽんぽんと私の頭を撫で、実はさぁ、と切り出した。


「お花屋さんの女の子と仲良くなってさ、サービスしてもらったんだ」

「…それならそうと、言えばいいのに。変に隠さないでよ紛らわしい」

「だからその子に彼女に花をあげたいんだけど何がいいかなって聞いたら、色々アレンジしてくれて…ね」


穿った見方をすればそのお花屋の子と話す口実だったとはいえ、私に花をあげたいと思ってくれたことは嬉しい。
…なんて、私って単純。急にこの綺麗な花束を部屋のどこに飾ろうかなんて考えだしてる。でも彼の言葉を聞いてまた一つ、あることに気付く。


「この花は俺が選んだんだよ、君に似合うと思って。どう?」

「うん、好き。ありがとう…じゃあ、この薔薇は?」

「それは花屋の子が選んでくれたんだよ。綺麗だよなー」


これをわざとかどうかなんて疑うことはしたくないから、素直に見知らぬ女の子からの宣戦布告を受け取っておくことにする。
清純の彼女には、些細なことで怒らない心の広さと余裕と優しさが必要なんです。それと。

「■■ちゃんの方が綺麗だけどね」

こんな言葉で誤魔化されるおめでたさもね。

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