高黒
□[19]決別の抱擁ーhugー
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「あの……?」
目の前にいる妹そっくりの青年は、首を傾げる。
「あんたのばあちゃんの旧姓って、高尾?」
「そう、ですけど。あなたは?」
「この顔、見た事ねえかな。黒髪じゃねえから分かりづらいかもだけど」
かけていた眼鏡を外すと、やはり見覚えはあったのか青年の目が見開かれる。
「君、もしかして……」
「そう。高尾 和成の、俺のい……あんたのばあちゃんの兄貴の、孫」
俺の妹、と言いかけて慌てて言い直す。その不自然さには気付かずに、青年は顔を綻ばせる。
初対面でありながら、いくら似ているとは言えすぐに信じるなんて、こんなおおらかなところは妹に似てるな、なんて思う。
「会わせてもらっていいっすか。俺……のじいちゃんの事、教えてやりたいんですけど」
「是非、是非どうぞ。うわ、ばあちゃんめっちゃ喜ぶ……父さん、母さん!ばあちゃんのお兄さん生きてた!お孫さんが来た!」
「何、……!」
出てきた男性に頭を下げる。驚くその顔は、妹そっくりだった。
「いらっしゃい。……ふふ、何だかまだ信じられないわ。こうして、お兄ちゃんの孫と対面しているなんて」
「じゃあ母さん、俺達席外すから。……ごゆっくり」
最後は高尾に向けて微笑みをくれて、妹の息子らしい男性は出て行く。
高尾にとっては2年振り……だけど妹から見れば実に60年振りの再会。
高尾は、本当の事は言わないまま「高尾 和成の孫」になりきろうと決めていた。
だけど、再会を果たして2人きりの部屋の中。
「孫だなんて嘘よね。お兄ちゃん本人、でしょう?」
何を話そうと視線を泳がせていた高尾が妹を見上げる。
「本当にばれないと思ってた?髪の色以外そんなに変わってないくせに、甘いよ」
その瞳は、すごく優しくて。
「どうしてあの頃と姿がそう変わっていないの?」
「それは……」
どこから話すべきか、高尾が迷っていると。
「お兄ちゃんがいなくなった18歳に私が追いついた年のお兄ちゃんがいなくなった日まで、私が15歳の時にお兄ちゃんの側にいた黒子さんの事を忘れていた事と、何か関係がある?」
「……!思い、出して……」
「やっぱりそうなんだ。ねえ、黒子さんはどこから来たの?何のためにお兄ちゃんの前に現れて、どうしていなくなっちゃったの?どうして私達は、黒子さんやうちに来た黒子さんのご親族の方々の事を、綺麗さっぱり忘れてしまったの?」