高黒
□もしも黒子が秀徳に行っていたら。〜出会い編〜
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中学3年の夏、黒子はバスケをやめた。
部活どころか学校にも行かなくなり、黄瀬や桃井が探してくれている事は知っていたけれど会う気になれずいつも避けて、横を通り過ぎても声をかける事もなかった。
久しぶりに学校に行った。
目があったクラスメイトに聞かれた。
「黒子、昨日の数学のノート見せてくんない?取ってるだろ?」
「いてもいなくても同じ」そう言われた気がした。
学校に行く気になれなくても引きこもりになるつもりもないので、行く宛てもないのに家を出た。
家族は黒子の苦悩を知ってくれていて、何も言わない。
気を使わせている、甘えている、それは分かっていても、どうしても行く気にならないのだ。
不意に賑やかな声がして顔を上げる。
そこは文化祭をしている中学校で、初めて来る学校だけれど名前は知っていた。
帝光ほどではないが、中学バスケの強豪校。
「…………」
なぜか、足が向かった。
気付いてもらえないまま受付を通り過ぎ、特に目的もなく歩く。
皆が楽しそうな笑顔で、黒子には気付かないまま通り過ぎていく。
何となく外の賑やかさを眺めながら壁づたいに歩いていたから、段差に気付かず足を踏み外してしまった。
「いっ……た……」
足は大丈夫そうだが、足をかばうためについた手を変に捻ってしまったらしく、激痛が走る。
しかもいつの間にか人通りは少なくなり、展示物や催し物の各教室へのルートからもはずれてしまっていた。
誰か人が通ったら声をかけて他校生でも利用出来るなら保健室の場所を教えてもらおうと、そう思った時。
がたん、と音がして目の前に重量感のある看板が現れた。
「え」
「おーい、後ろ確認して。誰も人いないー?」
友人らしい人物の声に、この学校の生徒らしい人物が看板の後ろ、つまり黒子がいる方を覗き込んで。
「うん大丈夫、誰もいねえよ」
「……」
ここにいます、と言おうとしてやめた。
声をかけなくても、誰かに気付いてほしい。
気付いて、「そこにいたら危ねえぞ」と手を差し伸べてほしい、なんて。
「おっしゃー、じゃあここに置いとくかー」
迫る看板。よけなければ確実に手どころか肩も怪我をするだろうが、避ける気力がない。
「あれ、何だよその看板下げんの?」
反対側から、もう1人男子生徒が来る。
目が合った、気がした。