高黒
□[15]心情の欠片ーpieceー
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気が付くと、いつの間にかその首に下げられていたネックレス。
「あれ?お兄ちゃん前からそれしてたっけ」
見せてと言ったら御利益が減ると断られて。
「何よ御利益って」
「願掛けしてんだよ」
「お守りみたいなもの?何、恋人が早く出来ますようにって?」
「何でそう来るよ」
「だってー、お兄ちゃん嫉妬してるでしょ。先に私に恋人出来たから」
「言ったなこのやろ」
「きゃー!」
結局ネックレスは見せてくれなかったし願掛けの内容も教えてくれなかったけれど、羽交い締めする腕は気遣うように柔らかくて。
優しい兄。
学校の用事でも遊びでも帰りが遅くなった日は、連絡すれば嫌な顔しないで必ず迎えに来てくれた。
自慢の兄。
自分の事を褒められるより、兄の事を褒められた時の方が嬉しかった。
大好きな兄。
時折見せるあの無邪気な笑顔を、ずっと見ていたかった。
なのに。
『悪い、今日帰れないかもしれねえ』
そんな電話を最後に、「今日」どころか、その日以降帰ってくる事はなかった。
「なあ、放課後どっか行かね?」
付き合って2年目に入った彼女に声をかけると、ごめんとジェスチャーで示す。
「ごめん、無理。今日お兄ちゃんの誕生日なんだ」
「あっ、そうか今日21日だな。悪い」
「ううん、いいの。ごめんね、また明日」
教室を出ていくその後ろ姿に「あー失敗した」と呟けば、付き合っている事を知っているクラスメイトが近付いてきて前の席に座る。
「彼氏より兄貴優先するってどうなんだよ……って言いたいけどしょうがねえか、もう1年経ったもんな。そんな仲よかったのか?」
「初めて一緒にいるの見た時、恋人だって勘違いしたくらいにはな」
「まだ見つかってないんだっけ」
「そ。でも、最近あいつなんか吹っ切れたみたいでさ。聞いてみたら「お兄ちゃんは大丈夫だと思う」って笑ったんだ」
「ただいま」
あれからもう1年。
一度も連絡は来ない。
でも何となく分かる、元気にしてるって。
「お兄ちゃん」
入った兄の部屋は、あの日バイトに行くと出かけた時のまま。
机に出しっぱなしの参考書も、壁に掛かったカレンダーも。
今日は11月21日。いなくなって2回目の誕生日。
「20歳のお誕生日、おめでとう」
そんな彼女が、兄・和成の安否を知るのは、これから50年以上も先の事。