高黒
□[9]合宿3日目B*find*
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買い込んだものを、どさりと地面に置く。
「結構買ったな。こんなもんか」
「かなりの量だぞ、持ち帰れるか?」
「それぞれ手分けするにもこのタマネギが、……あれ?黒子君は、」
「ここにいます」
「わっ!」
別に驚かすつもりはなかったのだが、桜井がきょろきょろと辺りを見渡すので声をかけてみる。
「すすすいませんすいません、目の前にいたのに気付かなくてすいません!」
「慣れてるんで気にしないでください」
「すいませんすいません!気にしてすいません!」
「いえあの、」
とにかく落ち着いて……と謝り続ける桜井となだめる黒子のやり取りを、小堀と宮地はまたかよと見守る。
買い物中、すでに幾度となく見た光景だ。
「こまけーのは俺らで全部持つから、そのタマネギの箱2人で持て」
「あ、はい。行きましょう桜井君。きっと皆さん待ってます」
肉買い出し担当の4人が先に帰った事は知っている。
箱買いしたタマネギを片方ずつ持ち上げながら、無意識に高尾と話した店に視線をやった黒子を桜井も視線で追いながら、さっき見た黒子の笑顔を思い出す。
あんなに可愛い顔で笑う黒子は、初めて見た。
試合に勝った時に見せる笑顔とも、まるで違う。
あの笑顔を知っている人間は、高尾以外に何人いるんだろうと思った。
桜井が黒子のあの笑顔を見た時、側には火神と宮地もいた。
けれどあの時は4人で話していた訳じゃなくて、宮地と火神は黒子達に視線を向けていなかった。
誰にも言っていないのだとしたら、その灯台もと暗しを利用して話していたのだとすると火神と宮地に知っているのか訪ねるのはリスキーだ。
いつから付き合っているのかは知らないし、そもそも本当に黒子の恋人が高尾なのかもまだ仮定でしかないのだが、秘密にしている理由は何となく分かる。
青峰が言っていた。
「テツは昔から、人の視線には敏感なくせにその視線の意味と自分に向けられる気持ちには鈍感でよ、危なっかしいんだ。だからあいつは俺らが守って、俺らが幸せにしてやんなきゃいけねえんだよ。どこの馬の骨とも分かんねえ奴に譲るかっての」
そこに現れた「恋人」。
まるで横取りされたような気になって気に入らないのだろうそれに、黒子も勘付いているのだろうと。
(すいません黒子君、僕には何も出来ません……)
人知れずひっそりと、桜井のしなくてもいい懺悔は続く。