高黒
□[13]幸福の連鎖ーhappinessー
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『もう一度過去に飛びたい?』
「はい、テツヤだけでいいので」
黒子にファイルを見せた翌日、赤司は黒子を連れて研究所に来ていた。
もう一度、高尾の元に行く許可をもらうために。
『だめよ。いくらあなたからのお願いと言えど、それだけは許可出来ない。赤司君も分かってるでしょ?』
ホログラムとして目の前にいるのは相田 リコ、通称カントクと呼ばれるこの研究所の最高責任者。
いつもは施設の中核にいて、外部の人間と話す時だけこうして立体通信で出て来る。
「分かってます。ですが、テツヤはもう一度過去に行くべきなんです」
『……さっきも言ったけど、それは無理よ。もう黒子君は行かせられない』
「過去を変えないため、ですよね」
『そうよ。2年前は何故か過去に痕跡は全く残らなかったけど、あれは奇跡よ。まだそれを引き起こした要因が分からない以上、リスクは侵せない』
この時代研究施設は数多くあれど、その中でも世界最高峰とも名高いこの研究施設にいる研究員は基本的に黒子に甘い。
2年前の黒子の涙を覚えていて、黒子を心配するからこそ平行線を辿る話に、黒子が赤司の服を掴む。
気付いた赤司が振り向くと、ここにいる人間の中では赤司にしか分からない程度の変化で不安そうに瞳を揺らしている黒子に、大丈夫だ心配するなと言うようにその頭を撫でる。
「大丈夫です。過去は変わりません。それどころか、テツヤをもう一度過去に行かせないとそれこそ過去が変わってしまいますよ」
『どういう意味?』
「例のファイルが、昨日ようやく開きました」
赤司がタブレットにインストールしていたヴィオレットを出すと、周りがザワリとざわめく。
「これは今から60年前、「高尾 和成」の妹が彼の孫だと名乗る人物から預かったものです。この中身は動画でしたが、不思議なんです」
『何が不思議なの?』
「とにかく見て下さい。これには、テツヤがもう一度過去に行った証拠がちゃんと映っていますから」
近付いてきた桃井にタブレットを渡す。
そうして。
『これは……』
さすがのリコも絶句した。
一緒に見ていた所員達も同じような反応で。
それを見て、赤司はもう一度言った。
「テツヤをもう一度、過去に行かせてください。―――過去を変えてはいけない、んですよね?」
もう、反対の声は返ってこなかった。