11月と10月のお話
□[9]ゲームオーバー
1ページ/4ページ
部屋の扉越しの隼君からの別れの言葉に、息を飲んだのか郁君からの反応はない。
それをどう捉えたのか、隼君は続ける。
「さすがに僕も疲れたよ。郁は、これを望んでたんでしょ」
「俺が……何、」
ようやく絞り出した声は、誰が確認するでもなく震えている。
「僕と別れたかったんだろ、って事。僕から別れを切り出すのを待ってたんだ」
「違っ……」
「何が違うの?僕はね郁、前に進みたいんだ。いつまでも立ち止まっているわけにはいかない」
「隼さ……」
「うまくやっていくには、もうこれしか方法がないんだよ」
それだけ言うと、隼君は郁君の部屋の前から立ち去ったようだった。
「隼さん、嫌だ、」
「郁!?」
隼君を追おうとしたのか、郁君を恋君が止める声がする。
「郁……?」
「……っ、ふ……」
漏れ聞こえる郁君の泣き声はこの後ずっとくぐもっていて、恋君に抱きしめられているんだろうなと想像出来た。
「……まあ、当然と言えば当然だね。隼にしては我慢強く粘った方だ」
事情を聞いて、春君達も最初は絶句したものの一拍置いて冷静に言った。
「結局何だったんだ、郁が隼を避け始めた理由。何もなくて郁がそんな事をするなんて思ってはいない、隼が気付かない内に隼との間に何か感じたんじゃないのか?」
始君の言葉にも、皆の反応を聞く限りでは郁君は首を横に振るばかりみたいで、理由は最後まで話さなかった。
貫く姿勢は立派だけどね、郁君。
約束は約束だから。
「ゲームオーバー、だよ」
俺が出した条件はちゃんと守ったから、皆に手出しはしないであげるよ。
俺はすぐに動いて、まずは知り合いの雑誌記者に片っ端から情報を売った。
事務所の管理がしっかりしているため彼らのスキャンダルは今まで出た事がないから、結構いい値で売れた。
その間にも郁君から幾度となく連絡が来ていたけど、すべて無視した。
ああ、もう彼らの会話を聞く必要はなくなったからストラップも回収しに行かないと。
「騒ぎが落ち着いた頃にストラップ回収しに行くよ」
そうメールを送ったら、観念したのか「……分かった」と小さな呟きが聞こえた。
情報が事務所に届いたのか、マネージャーが来た。
どうするんだと聞かれ、隼君は「真実を話すしかないよ。ね、郁?」と言ったけれど、それは同意を求めるものであり相談ではないため、郁君はただ「……はい」と小さく答えるしかないようだった。