11月と10月のお話

□[7]絆されたわけじゃない
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「隼!」

スタジオを出ると、始君に会った。

隼君が始君を好きでファンである事は彼らのファンも公認だから、始君に何か言われれば隼君も聞くかなと俺も思ったけど。

「はーいはい、お説教なら後で聞くよ」

「痛っ……」

いつもなら聞くのだろう始君の言葉すら軽く流して、隼君は郁君を連れてそのまま去ったようだった。

「……隼さん」

郁君が小さく呼んだ名前。

「ごめん……ごめんなさい……」

腕を掴んでいるのだろう隼君に、たった一度の謝罪。

―――後にも先にも、郁君が隼君の前で謝罪の言葉を口にしたのは、これきりだった。

そしてこの日の事は、隼君はもちろん郁君も事情を知ってる始君や春君も、誰もメンバーには話さなかった。

これ以上変な風に関係がこじれてメンバー間がぎこちなくなるのを恐れてか、始君から郁君に皆には言わないでおくと部屋まで言いにきたからだ。

それは、郁君にとってはありがたい言葉だったのだろう。

あまり間を置かずに「そうしてください」と返事をした。






それからしばらくして、久しぶりに郁君に直接会いに行った。

郁君が1人になるのを待っていたら、その場にいた涙君と陽君は呼び出しをくらって勝手に出て行って。


「何であんたがここにいるんだよ!」

「何でってご挨拶だね。ただ君の様子見に来ただけじゃん」

ちょっとした「ツテ」があってね。なんて事は言わないでおく。

とりあえず釘を刺して、背中で郁君の押し殺した泣き声聞いて。

次に聞こえたのは、涙君と陽君のとは違う、場所と時間の変更を告げるスタッフの伝言。

「あれ?郁君、目、腫れてない?大丈夫?」

ついさっきまで泣いてたからね。そりゃ腫れもするだろう、あんだけ泣けばさ。

「あーちょっと、最近寝不足なんですよー」

ちょっと、どころじゃないだろ、君。まぁ本当のことは口が避けても言えないからね。

「時間的に涙も陽も他の皆もここには戻ってこないだろうし、先に行ってようかな……」

ほんとあんたのせいで最悪、なんて毒付いてスタジオ着くまでに罵詈雑言……ほんとにさっきまで泣いてた奴か、これ?

「おはようございまーす」

誰もいないらしいスタジオ。

「……っ」

何か異常に気付いたのか、郁君の息を飲む音。そして、引き返しているらしい足音。だけどそれは途中で止まって。

「いい勘してるね」

(御大登場、かな)

「しゅ、ん、さっ……」

「正解」


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