11月と10月のお話

□[2]内緒の想い
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―始side

一週間ほど前、仕事から寮に戻ると珍しく隼が放心状態になっていた。

聞くと、郁に突然一方的に「近づくな話しかけるな」と言われたと(海に聞いた)。

郁とも直接話をした。

喧嘩をしたのかと聞けば、してませんよと返ってきた。

何でいきなり隼の事避け始めたんだ?と聞けば、隼さんは悪くないです、と返ってくる。

じゃあ何で今こんな状態なんだ、と聞いたら。

郁は黙り込んで、そのまま返事はしなかった。

「ああ始、お帰り」

仕事を終えて帰ると、春が待っていた。

先に寝ていろと言うのに、俺が帰ってくるまでいつも待っている。

出迎えてくれる相手がいるというのは悪い気はしないが、律儀な奴だ。

「そうだ、さっき郁がこの本始に返したいんだけどって俺に預けていった。直接返せなくてごめんなさい、って」

「本?……ああ、これか」

それは、10日ほど前に貸したものだ。もう読んだのか。

ぱらぱらページをめくっていた間から、ひらりと落ちた1枚の封筒。

郁が挟んだまま忘れたのか。そう思って見た表には。

「始さんへ」

そう書かれてあって。

「……すまん、もう部屋に戻るな」

「うん、お疲れ様。ご飯は?」

「昼が遅かったからいらない」

短く答えて足早に部屋に戻ったのは、「始さんへ」の下に「誰にも見せないで、1人で読んでください」と書いてあったから。

封筒を開いてみたその中には、こう書いてあった。



『始さんへ。

突然の手紙ごめんなさい。

だけど、この手紙の事、誰にも言わないでください。

俺と会っても、この手紙の事は絶対に聞かないでください。

隼さんにも言わないで。


隼さんとの事で、心配させてごめんなさい。

今俺がしてる事の意味は、いつか話せる日が来るかもしれないけど、今はどうしても無理なんです。


だから、始さんだけは知ってて。


俺ね、本当に隼さんの事、大好きなんです。




絶対に、失いたくない……側にいたい、側にいて欲しい……』



その手紙は、下の方は文字がにじんでいた。

「もしかして、泣きながら書いたのか……?」

こんな手紙を寄越しておきながら、その事は郁本人にも言うななんて意味はよく分からないけれど。

誰にも言わないでと言いながら俺にだけ送ってきたSOS。

「……ああ。郁が言うなら、そうしてやる」

どうしてメールでも電話でもなく手紙なのかそれも気になったけど。

泣きながらこれを書いてる郁を想像したら、らしくなく俺まで泣けてきた。


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