11月と10月のお話
□[2]内緒の想い
1ページ/3ページ
―始side
一週間ほど前、仕事から寮に戻ると珍しく隼が放心状態になっていた。
聞くと、郁に突然一方的に「近づくな話しかけるな」と言われたと(海に聞いた)。
郁とも直接話をした。
喧嘩をしたのかと聞けば、してませんよと返ってきた。
何でいきなり隼の事避け始めたんだ?と聞けば、隼さんは悪くないです、と返ってくる。
じゃあ何で今こんな状態なんだ、と聞いたら。
郁は黙り込んで、そのまま返事はしなかった。
「ああ始、お帰り」
仕事を終えて帰ると、春が待っていた。
先に寝ていろと言うのに、俺が帰ってくるまでいつも待っている。
出迎えてくれる相手がいるというのは悪い気はしないが、律儀な奴だ。
「そうだ、さっき郁がこの本始に返したいんだけどって俺に預けていった。直接返せなくてごめんなさい、って」
「本?……ああ、これか」
それは、10日ほど前に貸したものだ。もう読んだのか。
ぱらぱらページをめくっていた間から、ひらりと落ちた1枚の封筒。
郁が挟んだまま忘れたのか。そう思って見た表には。
「始さんへ」
そう書かれてあって。
「……すまん、もう部屋に戻るな」
「うん、お疲れ様。ご飯は?」
「昼が遅かったからいらない」
短く答えて足早に部屋に戻ったのは、「始さんへ」の下に「誰にも見せないで、1人で読んでください」と書いてあったから。
封筒を開いてみたその中には、こう書いてあった。
『始さんへ。
突然の手紙ごめんなさい。
だけど、この手紙の事、誰にも言わないでください。
俺と会っても、この手紙の事は絶対に聞かないでください。
隼さんにも言わないで。
隼さんとの事で、心配させてごめんなさい。
今俺がしてる事の意味は、いつか話せる日が来るかもしれないけど、今はどうしても無理なんです。
だから、始さんだけは知ってて。
俺ね、本当に隼さんの事、大好きなんです。
絶対に、失いたくない……側にいたい、側にいて欲しい……』
その手紙は、下の方は文字がにじんでいた。
「もしかして、泣きながら書いたのか……?」
こんな手紙を寄越しておきながら、その事は郁本人にも言うななんて意味はよく分からないけれど。
誰にも言わないでと言いながら俺にだけ送ってきたSOS。
「……ああ。郁が言うなら、そうしてやる」
どうしてメールでも電話でもなく手紙なのかそれも気になったけど。
泣きながらこれを書いてる郁を想像したら、らしくなく俺まで泣けてきた。