黄黒
□[scene2]試合当日
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県内随一のバスケの強豪校である海常がキセキの世代の1人である黄瀬 涼太を獲得したというニュースは、瞬く間に神奈川県内のバスケ部のあるほとんどの高校に知れ渡った。
黄瀬と黒子が入部した時からすでに練習試合の申し込みや偵察が絶えず、勝つのが当たり前の帝光で培った技術と精神で、黄瀬は快勝を続けた。
何より、試合が終わると黒子が優しく微笑んでよく頑張りましたと労ってくれる。
その瞬間が、黄瀬は好きだ。
そんな黄瀬の、試合がある日の朝は目を覚ますと視界いっぱいに広がる水色の髪にキスする事から始まる。
「黒子っち」
「んう……」
「黒子っち、朝だよ。起きて」
ふわりと撫でるように瞼にキスをすればゆるゆるとまつげが震え、ややあって水色の寝ぼけ眼が黄瀬の笑顔を映す。
「起きた?」
「……はいおきましたおはようございます……」
「まだ寝ぼけてるっスね?……ってだーめ黒子っち、寝ないで」
舌っ足らずの黒子にクスクス笑いながらぽんぽんと背中を撫でると、ごそごそと胸元に潜り込んで再び目を閉じようとした黒子の意識を呼び戻す。
「今日はあの火神達誠凛と戦う日っスよ。早く起きて、体動かしとかないと」
「はい……」
未だ眠そうに、それでも黒子は黄瀬に抱き起こされるまま体を起こして、目をこする。
ここは黄瀬の部屋。
試合の前日、黒子は黄瀬の側でないと眠れないため泊まりに来ていた。
これは常にある事。ある日を境に、黒子は試合の前日は黄瀬がいないと眠れなくなった。
「おはようございます、黄瀬君」
黄瀬は、黒子が欲しい言葉を欲しい時にくれる。
して欲しい事をして欲しい時にしてくれる。
それは今この時でも。
「うん、おはよ」
クスリと笑って、ベッドに座り込んだままの黒子の頬にキスをして。
「大丈夫だよ、黒子っち」
『大丈夫だよ、黒子っち』
「あの時」と同じ言葉をくれて、ギシリとベッドを鳴らして、抱き締めて。
「一緒に頑張ろ。ね?」
「……はい」
この温もりは、ひどく黒子に安堵感を与える。
心地よすぎる場所。もう抜け出せないし、抜け出そうとも思わない。
何より、目の前で優しく微笑む金色の彼がどんな手を使ってでも自分を手放さない事を、黒子は知っているから。
下降りようかと黒子の寝癖だらけの頭を撫でる黄瀬は、黒子にとってある意味唯一無二の存在なのだ。