黄黒
□[11]すこしのおんがえし
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「涼太ぁぁぁぁ!よかった、目、覚ましっ……っ」
「……姉ちゃん?」
目を覚ました黄瀬の視界いっぱいに見えたのは、いつもはばっちりメイクをして自分と並べば美形姉弟だと称されているはずの姉の、涙でグシャグシャになったスッピン顔だった。
「大事を取って1週間は入院だそうよ。聞けばしばらく大事な試合もなければ大きな損失に繋がる仕事もないって言うし、今外は今回の事故に関する情報が飛び交ってて事務所はその対応に追われてるし、ワイドショーは黄瀬黄瀬黄瀬黄瀬うるさいし家にもインタビュー取りに来るし」
「もうそんな騒ぎになってんだ。俺どんくらい寝てたの?」
「丸2日よ、ふ・つ・か!学校の方は、夏休み中って事もあって大きな混乱はないみたい。あんたは完治するまで表出さないように通達があったから、この際ゆっくり休みなさい」
落ち着きを取り戻し、我に返ってメイクを直した姉は。
「彼氏とのデートほっぽって付いててあげたんだから、退院したらそれなりの報酬はもらうからね」
泣いていた事なんてみじんも感じさせない、むしろ「泣いてなんかないですけど何か?」とでも言わんばかりの態度に、黄瀬は小さく笑う。
「うん分かってる、ありがと。ごめんね心配かけて」
「やだ涼太が真面目に謝るなんて怖い」
「どうしろと」
いつもの姉の調子にまた少し笑ったら姉がむっとしたけれど、それはすぐになりを潜めた。
「涼太、聞いてほしい話があるの。信じられないかもしれないけどけして冗談とかじゃないから、ちゃんと聞いて」
「うん?何」
椅子にきちんと座りまっすぐ見つめてきた姉に、黄瀬もベッドに横になったまままっすぐと見つめ返す。
「助かったのは、本当に奇跡だったの。真上のライトが、運動神経のいいあんたが避ける間もないスピードで落ちてきたのに、頭の軽いけが程度ですんだ」
黄瀬は、自分の頭に巻かれた包帯に触れる。
「その場に居合わせた皆が見たらしいの。ライトが落ちた瞬間、水色の綺麗な光が涼太の体を包み込むのを」
「え……」
それは状況を忘れて魅入ってしまったほどに幻想的な風景だったと、皆口を揃えて言った。