黄黒
□[6]悪夢に光
1ページ/4ページ
「黄瀬」
部活が終わり、いつものようにあのストバスに行こうと先に部室を出ようとしたら、笠松に呼び止められた。
「はい?何スか先輩」
「お前、最近例の彼と何かあったか」
「何かってなんスか?」
「……いや、何もないならいいんだ」
不思議そうに首を傾げる黄瀬に、笠松は視線をはずしてさっさと行けと手で示す。
「?変な先輩っスね」
じゃあお先にといつもの笑顔を見せて帰る黄瀬の背中を、笠松がじっと見ている。
「…………」
笠松は黄瀬がぱたんと扉を閉め切って姿が完全に見えなくなるまで、何か物言いたげに険しい顔で見送っていた。
「笠松?どうした、何か怖い顔してるぞ」
「いや、何か最近黄瀬の奴笑っててもどこか寂しそうっていうか元気がないっていうか、目の奥が笑ってないような気がして」
「そうか?でももしそうだとしても、……全然笑わなかった時と比べればましだろ。お前の勘ぐり通り何かあったのだとしても、何もないかのようにいつものように振る舞う余裕はあるんだからさ。泣きついてきたらそん時慰めてやればいい」
「……森山」
ポンと肩を叩く森山を見送って。
「お前、たまにはまともな事言うんだな」
「たまにって!」
失礼だぞと詰め寄る森山を適当にあしらいながら、笠松はその通りだと思った。
あの笑顔が完全になくなる前に、手を差し伸べてやればいいのだと。
マジバに寄って、バニラシェイクを買う。
足早に出たのは、青峰達に黒子の話を聞いたあの席が視界に入ってしまうため。
あの日の事を、鮮明に思い出してしまうため。
マジバを出ても、足取りはかなり……重い。
あの話を聞いてから1週間。
黒子と会っていない。
「……」
歩いているといずれは目的地に着くもので、黄瀬は無言でストバスのフェンスに手をかけた。
フェンスがかしゃんと小さく音を立てる。
そこは、黒子に初めて声をかけた時つかみかかった場所。
切なげに目を細めて、黄瀬は黒子と会えていた時には無かった、少し古びて破れかけている「危険立ち入り禁止」と書かれた貼り紙のしてある入り口を開けて中に入る。
「……黒子っち」
呼んでも返事は来ない。
黄瀬は慣れたように足を進め、いつも黒子が休憩したり黄瀬からの差し入れのバニラシェイクを飲んでいたベンチに座って、目の前の光景から目を背けるかのように目を閉じた。