高黒
□[episode2]遠い日のはつこい
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母親が黒子家に嫁いだのは、8歳の時だった。
姓が黒子に変わっただけで生活に劇的な変化はなく、ただ新しい父親が出来た、そんな感覚。
新しい父親はとても優しく、仕事が休みの日には遊んでくれるし、分からないところを聞けば勉強だって教えてくれる。
従兄弟の赤司に対してだって、テツヤの従兄弟ならお父さんの甥っ子だなと笑って、あっさりと赤司の信頼を得た。
新しい父親が大好きで、いつもお父さんお父さんで、本当に血が繋がっているみたいだなと当時の研究所所長――リコの父親――に笑われたものだ。
そして、親子になって1年ほど過ぎた頃。
「お父さん、これは何ですか?」
久しぶりに書斎にたまったアナログデータの処理をするというので、お手伝いしますと申し出た。
そんな時に見つけた、薄い箱。
「旧式のモバイルですか?充電器の差し込み口がありませんけど」
「ああ……そんなところにしまっていたのか」
父親は懐かしそうにそれを受け取り、大事そうに抱えた。
「これはモバイルではないよ、テツヤ。50年前から、うちに代々伝わる家宝のようなものだ」
「家宝ですか」
「テツヤも中身を見るかい?」
「見てもいいんですか?」
「もちろんいいよ。いずれお前のものになるからね」
首を傾げると、父親は笑って座り込み箱を開けた。
そこに入っていたのは、旧型のメモリーカードと写真。
「……この人は?」
「名前は何だったかな……そうそう、高尾 和成さん。お父さんのお母さんのお父さん――つまりおじいちゃんの、おばあちゃんのお兄さんだよ」
「おじいちゃんのおばあちゃんのお兄さん?」
「そう。ある日突然失踪してね、その人は結局見つからずじまいなんだけど、その写真とこのメモリーカードはそのお兄さんのお孫さんがおじいちゃんのおばあちゃんに届けてくれたんだよ」
父親は、2枚目の写真を見せて老婦の横で笑顔を見せる、金髪の青年を指さす。
「その届けてくれたお孫さんが、この人」
「カードの中身は何ですか?」
「それは誰も知らない。誰にも見れないから」
「どうして?」
「見ようとしても、ロックがかかっていてファイルが開かないんだ。そして誰もそれを開く事が出来ない。……だから誰も中身は知らないけれど、「いつかきっと見れる日が来るから」と口伝されてきた言葉と共に、高尾家家系の第一子が代々受け継いできたんだ」