暗闇の中から
□[6]水瓶座のラッキーアイテム
1ページ/4ページ
中学時代、黄瀬が「金色の悪魔」と呼ばれ恐れられていた事を知る人間はけして少なくない。
「同じ道に逸れた」者達に至っては、知らない方がおかしいと言わせるほど。
どこかの国の王子様かと思わせるほどに明るい髪色、それに劣らない美貌。
黙って大人しくしてさえいれば、女のみならず男でさえ息を飲む美しさではあったけれど、その中身はそれを見事に裏切っていた。
ひとたび暴れ出せば手が着けられず、武器を持った30人に囲まれてもかすり傷を負った程度で全員地面に沈めたという逸話まである。
そんな黄瀬の相棒兼ストッパーとして側にいた虹村も、「漆黒の天使」と呼ばれていた。
黄瀬と同等かヘタすれば黄瀬以上に喧嘩の強い、お世辞にもそう称されるような外見でもない彼が何故「天使」と称されたのか、それは彼らと喧嘩をした人間のみぞ知る真実。
けれど。
黄瀬の前に、「金色の悪魔」と呼ばれていた人物が、もう1人いるのだ。
「おいおい、本気で言ってんのか」
「冗談で言わないよ、こんな事」
「俺らが本気になったらどうするよ」
「馬鹿。フリよ、フリだけでいいの。本気でやったらさすがに可哀相。私もそこまで鬼じゃないよ」
「よく言うぜ」
「うるっさい。ヘマしたら、スポンサーやめるからね」
「ヘマすっかよ!」
この時ここにいた皆、この話に荷担した彼らは全員知る事になる。
「頼むね」
「無知」ほど、怖いものはないという事を。
奇しくもそれと同じ頃、笠松と黄瀬は困っていた。
「先輩、どうします?この可愛い子」
「どうするって……ここに寄りたいつったの、この可愛い奴だしなぁ」
2人が臆面もなく可愛いと賞するのは、緑間から今日の水瓶座のラッキーアイテムだと渡された、パイル地の白いウサギのぬいぐるみのウサ乃さん(黒子命名)を膝に抱いて笠松の運転する車の助手席で眠っている黒子。
「寝かせときてえけど、このまま帰ったら怒るしな。しょうがねえけど起こすか。テツヤ、テツヤ起きろ、着いたぞ」
「う?……ふあ、ボク寝ちゃってましたか」
「ぐっすりね。はいはい、早く用事すませて宮地サンとこ帰ろ」
寝起きでまだ少しポケッとしている黒子に笑って、黄瀬がシートベルトをはずしてやる。
「あれ、ウサ乃置いてくんスか?」
「いくら緑間先輩の厚意と言えど、ぬいぐるみを持ち歩くのは校内だけにしたいです」