黒受け
□タイムリミット
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「もういいよ、てめえなんか知るか!出てけ!!」
怒鳴られて、彼の家を飛び出した。
彼にとっては、いつもの喧嘩のつもりだったかもしれない。
けれど、黒子はもう限界だった。
多分、しばらくして頭が冷えると、中々帰ってこない黒子にしびれを切らして電話が来るだろう。
だから、まずは電源を切った。
都内の友人は頼れない。彼は黒子の交友関係を熟知しているから。
黒子に連絡がつかないとなると、彼らに順番に連絡していくだろう。
もし、誰かの家に行ったちょうどその時そこに彼からの連絡が来たら。
仲を取り持つつもりで「帰ってやれよ」と諭される。
それもまた彼らの優しさなのだとは分かっているけれど。
彼と喧嘩した時黒子の言い分だけを全面的に信じて家に招いてくれるのは黄瀬だが、今は間近に控えたファッションショーの準備でホテル暮らしをしているため家を空けている。
連絡をして事情を話せば、きっと滞在先を教えて「おいでよ」と言ってくれるだろうが、仕事先にまで押し掛けるような迷惑はかけたくない。
行く宛もなく歩いて、見上げたその先には駅。
ふと、今日は赤司の誕生日だという事を思い出した。
そう言えば、今年はまだおめでとうを言っていない。
その時、何故彼の顔が浮かんだのかは黒子にも分からない。
だけど。
「あかしくん」
思い浮かんだその彼の名前を噛みしめるように言葉にすれば、急に会いたくなった。
気が付くと、黒子は京都までの片道切符を買っていた。
自販機でお茶を買えば、残ったお金はわずか90円。
「もうジュース1本買えませんね」
帰ってくる事すら出来ない。
それでもいいと、黒子は新幹線に乗り込んだ。
青峰から京都の赤司の元にその連絡が来たのは、それから3時間後。
「テツヤがいなくなった?どういう事だ」
『また彼氏と喧嘩したらしくてよ、あいつがテツの居場所知らねえかって連絡してきたんだ。俺も紫原とか緑間とかに連絡回してみたけど、誰んとこにもいねえ』
「涼太はどうした。テツヤの様子を一番知るのはあいつだろう」
『黄瀬は仕事で行方くらましてる。連絡は付くだろうが、テツがいなくなったなんて言ったらあいつ仕事放り投げてテツ探しに出んだろ』
「それは人に迷惑をかける事をよしとしないテツヤは喜ばない、賢明な判断だ大輝。なら火神から誠凛サイドに連絡を回させろ」