for you
□このまま、2人きりで。
1ページ/5ページ
「ごめんなさい和君と一緒にご飯食べたいのでお断りします」
「いやいやいやいやちょっと待て黒子」
ぺこりと頭を下げてくるりと踵を返すと、がしっと肩を掴まれる。
「何ですか。ボクは君達なんかに構うより速攻で和君の待つお部屋に帰りたいんですけど」
「相変わらず辛辣!いやほんと、1時間でいいからさ」
高校からの付き合いの、同じ大学に通う友人に誘われた飲み会。
彼らのそれは100パーセント合コンである事はすでに学習してるから誘われるたびに断っているのに、まったく懲りない人達だ。
「その貴重な1時間、ボクは和君のために使います。スマホの充電が切れてしまって、和君と電話も出来ないんです。充電したいしボクもそろそろ和君切れで和君充したいので、これで失礼します」
「待てよ黒子、って、いねえ!」
ぺこりと頭を下げて早々にミスディレクションで逃げた。
急いで帰ると、いつもなら黒子が帰ってきた事に気付いて出迎えてハグしてキスしてくれる高尾は、いないようだった。
違う大学に通う2人、学校で一緒にいられない分どうしても外せない時以外はまっすぐ家に帰る、タイミングが合えばどちらかが迎えに来る、そう決めていた。
今日は高尾の休講があったから、家にいるはずなのだけれど。
「和君?」
靴を脱いで上に上がっても、高尾がいる気配は感じない。
何より、リビングに入ってすぐに覚えた違和感。
いつも節電節水に気を付ける高尾が、キッチンの電気をつけっぱなし。
下拵えのすんでいる豚肉も出しっぱなし、綺麗に切りそろえられた具材の中でタマネギだけは切りかけで途中でやめたそのまま。
「何……、……っ!」
コン、と何かが足に当たった。見るとそれは、高尾の携帯で。
「か、ず、君……?」
先に携帯の充電を切らしてしまい連絡の付かない状態にしてしまったのは自分だ。
もしそれで高尾が心配して探しに出たとしても、携帯を置いて出るなんてまずあり得ない。
しかも、こんな風に床に置いて……いや、落とすなんて事も絶対にあり得ない。
「もしかして、和君に何かあった……?」
最悪の事態を想定してしまって、全身から血の気が引く。
突如、手の中の高尾の携帯が鳴った。表示されているのはさっき別れた友人で、黒子は藁をも掴む思いでそれに出た。
「もっ……もしもし、あの、あの、」
どもる黒子に返ってきた声は。