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□その笑顔に
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それは、誠凛がI.Hへの挑戦が終わって10日ほど経った、7月最初の日曜日の事。



黒子は満員電車が嫌いだ。

ぎゅうぎゅうに押しつぶされる上に、誰にも気付かれないから。

けれどじっと我慢する。
こんな混む時間に乗った自分が悪いんだと言い聞かせて。

目的の駅に着くまで誰にも気付かれないままだと思っていた、けれど。

「苦しいとか声出すくらいしろよお前」

声と同時に、ふと体が軽くなった。

「え?」

「ただでさえ影薄くて普通の奴らは見つけにくいんだからよ」

前を見ると、紺色のTシャツ。少し視線をあげれば、黒い髪。

「……高尾君?」

「おう。大丈夫かよ」

押しつぶされるように流されるままドアの前にいたのが幸いしたのか、高尾が黒子と乗客の間に入り黒子が潰されないようにガードしてくれていた。

「ごめんなさい、ありがとうございます……あの、」

「いいから。息整えろ」

優しい言葉に頷いて、黒子は大きく深呼吸をする。

「よく乗るのか?」

「はい?」

「この時間」

「いえ、出来るだけ避けてるんですが、今日はどうしても手に入れたい本があるので仕方なく」

「混んでない時間選べよ」

「昨日までずっと部活で来れなくて、今日やっと手に入ると思ったら待ちきれなくて」

「何だよ、意外にせっかちなんだなお前」

ぷっと高尾が吹き出す。
黒子を守るように自分は他の乗客に押しつぶされて苦しい体勢のはずなのに、それを黒子に感じさせないその優しさに、黒子は高尾君の方こそ意外ですと思った。



「本当にありがとうございました。おかげさまで助かりました」

「別にいいって。たまたま乗った車両に見覚えのある水色頭が見えた、それがお前だった、相変わらず誰にも気付かれてなくて潰されそうになってた、だから気になって近付いた、ただそれだけだ」

「優しいんですね」

からかうのではなく微笑んで本心を言う黒子に、高尾は少し気恥ずかしくなって頬をかく。

「同じ地区だっつーのによ、プライベートで会うの初めてだな」

「そうですね。秀徳も今日は練習お休みですか?」

「まあな。そうだ、お前さえよければだけど連絡先交換しねえ?俺今から用事あっから今日は無理だけど今度遊ぼうぜ。バスケ抜きで」

「「同族嫌悪」してるんじゃなかったんですか」

「あれはコートの中だけ。プライベートは完全に別っしょ?」


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