黄黒
□一緒に過ごすその瞬間が、
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目が覚めた黒子の目に真っ先に飛び込んできたのは、恋人の寝顔だった。
「きせくん」
小さく名前を呼んで、黒子は自分を緩く抱き締めて眠る黄瀬を起こさないようにゆっくりと起き上がった。
時計を見ると、朝の8時。
高校を卒業し本格的に芸能活動を始めた黄瀬は、それまでよりいっそう忙しくなった。
成人した事で0時超えの仕事も入るようになり、連載を持っている雑誌取材、生番組の打ち合わせ、人気ドラマのSPへのゲスト出演、連続ドラマのレギュラー出演、その番宣の段取り……その合間の小さな仕事まで全部言ってたらキリがない。
けれど、そんなに忙しいにも関わらず黄瀬はこうして黒子のところに帰ってきてくれる。
昨日寝る前に電話で話した時も、今からファッション誌の撮影だと言っていた。
そのファッション誌の専属カメラマンは中学の時に最初に仕事した時からいたく黄瀬がお気に入りで、ファンからの要望も熱いからと元々はレディース用ファッション誌のそれに黄瀬はしょっちゅう登場し、ページ数も他のモデルの否ではない。
それでも女性モデル界側から苦情が一切来ないのは、それだけ黄瀬の幅広い層での人気と文句を言わせない実力を兼ね備えている事を物語っていた。
そんな黄瀬をプライベートでは独り占めしている事には、ファンの皆には悪いが罪悪感などはない。
こんな無防備な寝顔を知っているのも、自分だけ。
(可愛いです……)
存分に黄瀬の寝顔を堪能し、もそりと起き上がる。
テーブルの上には、一枚のメモ。
『ただいまっス、黒子っち。12月バリバリ働いたご褒美として、明日のお昼までの1日半オフになったっス!
年越しは2人きりですごそうね
涼太』
今日は大晦日。
「……え、本当に?」
語尾にハートマークをつけてのメモに顔を綻ばせ、安心しきった顔で眠り続ける黄瀬の寝顔にキスして。
「では、目が覚めるまではゆっくり休んでください」
頭を撫でると、黄瀬は微かに笑った。
黄瀬が脱ぎ散らかした服を拾いながら洗面所に向かう。
綺麗好きで清潔感溢れる、というイメージの黄瀬は実際にはそういうほどではない。
汚いところにいても我慢出来るとまではいかないけれど、部屋の片付けと睡眠どちらをとるかと聞かれれば、即答で睡眠と答える。
要は「出来る時にやる」タイプ。