黄黒
□[8]誰よりも側にいてほしいのは君だけ
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白宮は内心、肩すかしを食らっていた。
和彦を、どうしても黄瀬と会わせたかったのだ。
そうすればきっと、黄瀬が誰なのか分かると思ったから。
けれど、黄瀬は自分を最大限に警戒している。
さっき車ですれ違った時も気付いていたようだから、きっと今頃気が気ではなくなっているだろう。
仕事の都合もあるだろうが、おそらく和彦がここにいる間に戻ってくるはずだと白宮は思った。
それにしても。
「黒子君、この本は読んだ事ある?」
「わ、欲しかったけどどこ探してもなかった本ですっ」
「良かった、持ってきて。柳……白宮さんを通じて赤司君から黒子君は本が好きと聞いてね、少し前に絶版したこれはもしかしたらと思って」
「お借りしていいんですか?」
「あげるよ。一度だけ読んでほったらかしにしてた本だからね、黒子君のような本好きさんのところに行った方が本も幸せだろうし」
「えっ、でも、ボク何もお礼出来ないですし、悪いです」
「テツヤ、もらっておいたら?せっかく和彦さんがテツヤにって持ってきてくれたんだから」
「う……赤司君がそう言うなら。でしたら、ありがたくいただきます。大切にします」
「うん。あはは、君達は本当に赤司君を信頼してるんだね」
ペコリと頭を下げる黒子に、赤司は穏やかに和彦は微笑ましげに笑う。
「……藤井、和彦君は随分彼らに馴染んだな」
「そのようですね。昔から和彦様は、人の心を掴まれるのがお上手ですから」
微笑ましげに見守る藤井の言葉に、白宮は早速とばかりにイソイソと表紙を開く嬉しげな黒子の顔を遠目に見ながら、昔を思い出す。
「あの時、彰子さんは結局何の本を読んでいたのかな……」
「はい?」
あれは譲が失踪してしばらくした頃。
彰子は外の風を感じる窓辺に座り、時折物思いに耽りながらいつも同じ本を読んでいた。
『彰子さん、何の本を読んでいるんだい?』
聞いたけれど、あの時彰子の耳に自分の声は届いていないように見えた。
パシャッ
木漏れ日の淡い日差しの中、最後のシャッター音が響く。
「はいこれで終了でーす。お疲れ様でした!」
カメラマンの言葉に、黄瀬はようやく黒子の元に帰れる安心感から息をつく。
「お疲れ黄瀬君。今日は悪かったね、オフだったのに」
声がした方を振り向くと、スポンサーがいて。
その後ろには、見た事のない女性。