黄黒

□[scene24]夏休みの出来事B〜ホークアイの受難〜
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中学時代、キセキの世代には「幻の6人目」の他に知る人ぞ知るもう1つの噂があった。

「「5人目」だけはけして本気で怒らせてはいけない」と。

キセキの世代の5人目と言えば黄瀬の事。
その黄瀬はモデルをしているだけあって人当たりがよく、とにかく笑顔の似合う爽やかな、およそスポーツ選手とは、全国レベルの強豪校のレギュラーとは思えない風貌。

笑顔しか印象のない彼がどんな理由で怒って、怒るとどうなるのか少し興味はあったけれど、その時は予想すら出来なかった。

だから、高尾自身その噂の事はすっかり忘れていたのだ。

お好み焼き屋で、あの瞳を見るまでは。

一般的に見て美形の部類に入る人間の無表情ほど、底冷えするものはないと思う。

黄瀬が見せたあの瞳には、ゾッとして背筋が凍るかと思った。

「見たのか。あの瞳を」

それでも、緑間は言った。

「あれでも緩和されていた方なのだよ、黒子がいたからな。中学時代、黒子がいない時に俺達が見たものはもっと冷たかった。その場にいた人間で青ざめなかった者はいなかったくらいにな」

それ以上は聞けなかった。

自分は何も事情は分かっていないはずなのに、言いようのない「恐怖」が「興味」を凌いでしまったから。






「あり?黒子?」

部活のない休日、ふと視線の先に水色の髪が見えて声をかけた。

黒子は高尾の声に振り向きはしたけれど、その瞳には呼び止められた事に少しの驚きがあって。

「あー、俺の事忘れてっか?I.H予選のうちと誠凛の試合後のお好み焼き屋以来だしな」

「いえ覚えてます、秀徳の10番でPGの高尾君。すみません、あまりにも意外な人に会ったのでびっくりしてました」

ふわりと、黒子が笑顔を見せる。

「ポジションまでご丁寧にどうも。この辺よく来んの?」

「黄瀬君とよくお散歩デートするコースです」

「ぶはっ!相変わらず仲いいのな、お前ら。で、その黄瀬は一緒じゃねえの?」

「黄瀬君はお仕事です……」

何気なく聞いた高尾の言葉に、黒子の顔が一瞬で曇る。

「え、あれ?黒子?」

思わず、高尾は慰めるようにポンポンと頭に手を置いた。

「会えなくて寂しいのか?」

「はい」

「相手は人気モデルだからなぁ……夏の公式戦も終わったし書き入れ時なんだろうよ、どんくらい会ってねえんだよ」

「2時間です」

「……はい?」

「2時間も前に、行ってらっしゃいと見送りました」


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