黄黒
□[scene24]夏休みの出来事B〜ホークアイの受難〜
1ページ/3ページ
中学時代、キセキの世代には「幻の6人目」の他に知る人ぞ知るもう1つの噂があった。
「「5人目」だけはけして本気で怒らせてはいけない」と。
キセキの世代の5人目と言えば黄瀬の事。
その黄瀬はモデルをしているだけあって人当たりがよく、とにかく笑顔の似合う爽やかな、およそスポーツ選手とは、全国レベルの強豪校のレギュラーとは思えない風貌。
笑顔しか印象のない彼がどんな理由で怒って、怒るとどうなるのか少し興味はあったけれど、その時は予想すら出来なかった。
だから、高尾自身その噂の事はすっかり忘れていたのだ。
お好み焼き屋で、あの瞳を見るまでは。
一般的に見て美形の部類に入る人間の無表情ほど、底冷えするものはないと思う。
黄瀬が見せたあの瞳には、ゾッとして背筋が凍るかと思った。
「見たのか。あの瞳を」
それでも、緑間は言った。
「あれでも緩和されていた方なのだよ、黒子がいたからな。中学時代、黒子がいない時に俺達が見たものはもっと冷たかった。その場にいた人間で青ざめなかった者はいなかったくらいにな」
それ以上は聞けなかった。
自分は何も事情は分かっていないはずなのに、言いようのない「恐怖」が「興味」を凌いでしまったから。
「あり?黒子?」
部活のない休日、ふと視線の先に水色の髪が見えて声をかけた。
黒子は高尾の声に振り向きはしたけれど、その瞳には呼び止められた事に少しの驚きがあって。
「あー、俺の事忘れてっか?I.H予選のうちと誠凛の試合後のお好み焼き屋以来だしな」
「いえ覚えてます、秀徳の10番でPGの高尾君。すみません、あまりにも意外な人に会ったのでびっくりしてました」
ふわりと、黒子が笑顔を見せる。
「ポジションまでご丁寧にどうも。この辺よく来んの?」
「黄瀬君とよくお散歩デートするコースです」
「ぶはっ!相変わらず仲いいのな、お前ら。で、その黄瀬は一緒じゃねえの?」
「黄瀬君はお仕事です……」
何気なく聞いた高尾の言葉に、黒子の顔が一瞬で曇る。
「え、あれ?黒子?」
思わず、高尾は慰めるようにポンポンと頭に手を置いた。
「会えなくて寂しいのか?」
「はい」
「相手は人気モデルだからなぁ……夏の公式戦も終わったし書き入れ時なんだろうよ、どんくらい会ってねえんだよ」
「2時間です」
「……はい?」
「2時間も前に、行ってらっしゃいと見送りました」