黄黒
□[5]あるはずのない遠い日の記憶
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冷たい瞳。
それは、誰しも近づきたがらないほどに鋭いものだった。
「ちょっ……黄瀬君、何て目をしてるんですか、失礼ですよっ」
抱きしめられた腕の中で服をぐいぐい引っ張る黒子には反応したけれど、白宮を睨みつける瞳は外さずにいる。
「えっと、すみません、いつもはこんな不躾な人じゃないんですけど、」
「いいよ。彼が怒りたくなる気持ちも分かるし。こっちこそごめんね」
「もう、黄瀬君ほんといい加減にしてください」
そんな黒子の必死な弁解の前に、白宮から2人を遮断するかのように立ちふさがったのは赤司だった。
「昨日言っていた、「ないとは言い切れない」メリットとはこの事ですか」
「そうだね。もしそれが原因で別れるような事になれば、後々前世の記憶を思い出した時に気持ちの板挟みで苦しまなくてすむからね」
「何それどういう意味。だいたい、前世の記憶とか思い出さないでしょ普通」
赤司と同じく自分の前に立ちふさがる208cmの紫原に上から見下ろされても、白宮は表情を変えない。
「変かな?僕は20歳の誕生日に前世の記憶を思い出した」
「……!」
「そしてここが立ち退きを迫られていると知って、父に頼んで買い取ってもらったんだ」
「ちょっと待ってよ。ここの旦那って、失踪して行方知らずのままなんじゃないの」
「でもこうして生まれ変わってここにいる。つまり、そういう事だよ。'その瞬間'は思い出せないけどね」
それだけ言って、爽やかな笑みを崩す事なく立ち去るその間も、黄瀬はずっと白宮を睨みつけていた。
その視線を、藤井が何かを思うように見つめていたのには誰も気付かなかった。
「黄瀬君、ボクの話聞いてますか?」
離してください、とグイグイと体を押すが、いつもより強い力で抱きしめている腕は中々黒子の体から離れない。
「……聞いてるよ」
「きせく……っ!」
グイ、と頭を引き寄せられたかと思うと、黒子はいきなりキスされた。
「ちょ、き、離し……んっ……」
何度も角度を変えて続けられるそのいつもよりかなり強引なキスに、赤司と紫原に見られていると分かっていてもなお黒子の理性は次第に奪われていく。
流されたら駄目だと思いながらも、そのキスがいつもと違いどこか寂しげにも感じて、拒めなかった。
「……れのもんだ……」
「黄瀬君?」
「黒子っちは俺のもんだっ……」