11月と10月のお話
□[15]もう少し
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だが。
「始さん、ここはどうやって解けばいいですか?」
「ここはな……」
始が説明している間、隼は郁の髪にキスしたり抱きしめたり肩に顎を乗せたり、やりたい放題だ。
(ちょっと隼さんっ)
(何?勉強に集中しなきゃだめだよいっくん、せっかく始が教えてくれてるんだから)
(集中出来なくさせるような事してるの誰ですかっ)
(えー、僕のせい?)
ひそひそと、男には拾えないほど小さな声で交わすそんな会話。
『郁の邪魔をするなって始にすごく怒られた。理不尽だと思わない?』
『思いませんっ。いい加減にしないと、出禁になりますよ。と言うかしますよ俺が』
後でそんなメッセージのやりとりをするのにも慣れた頃。
黒月や月城が人脈を使って男の素性を突き止めた。
全体ミーティングだと偽って郁には携帯を部屋に置いてこさせ、初めて皆に事の次第を話す。
「あんた最低」
全体ミーティングだから携帯部屋に置いていっていいかと聞いたら、面白い事は起きなそうだからいいよと言われ、つい乱暴に扱ってしまった。
部屋を出ると、涙が迎えに来てくれていて、一緒に共有スペースに向かうと皆もう揃っていて。
一番奥にいた隼を見て、郁が嬉しそうに笑った。
それを見て、携帯がない事に気付いた隼が。
「やあいっくん、首尾は上々かな」
笑顔でそう言った事に、事情を知る始や葵達4人以外の皆が驚いた。
今本当の事を話したとしても、皆が信じるかどうかも分からない。
だけど、本当は皆も分かっているはずなのだ。
郁に対して、信じられなくなったと口では言いながらも、常に郁の事を気にかけていた。
隼に対してだって、本当は郁を意味なく傷つける事なんかないって分かってるはずなのだ。
ただ郁の涙を見て一瞬、ほんの一瞬だけ、隼が分からなくなってしまっただけ。
けれど今はそんな理屈とか、理由とかは郁には関係なかった。
「……っ、隼さんっ……」
これまでは、意識して隼を避けていたはずの郁が、隼に駆け寄り抱きついた。
「しゅ、隼、さん、隼さっ……隼さんっ……」
「うん。よしよしいっくん、今日までよく頑張ったね」
抱きついた途端ボロボロと泣き出した郁の髪を優しく撫でる隼の穏やかな表情を見るのは皆久しぶりで、反応が遅れた。
「……っ、郁、隼から離れろ。お前からそんな事したら、次何されるか、」
「嫌だっ……」
郁を隼から引き離そうとした陽の腕を振り払って、郁は更に強く隼に抱きつく。