11月と10月のお話

□[14]たとえ話せなくても
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『おはよういっくん』

『おはようございます、隼さん。今日は早いですね』

『目が覚めてね。今からロードワーク出るんでしょ?』

『はい』

『今日の「護衛」は誰?』

『またそういう言い方する!』

『あはは、ごめんごめん。一緒に行ってくれるのは誰?』

『今日は陽です』

『そっか。気を付けて行ってらっしゃい』

『はい、行ってきます』

本人にするようにスマホにキスをして、引き出しにしまって部屋を出る。

「おう、郁はよ」

皆が、始と春から隼が郁にしようとしていた事を聞いて数日。

「おはよう、よく起きられたね陽」

「うっせ。行くぞロードワーク」

「うん」

皆が、隼を警戒し郁に対して過保護になった。

隼と話せるのは今はスマホを通じての文字でのみだけれど。

直接話せなくても、目を合わせる事が出来なくても、同じ場所にいられるだけで今は幸せだと思った。



それからさらに数日が経ち。

「仕事の前に気分転換に連れて行きたいところあるから、ついて来て。今日の仕事も同じだし、一緒に向かえるでしょ」

春に誘われて、皆より先に寮を出る。

「どこに行くんですか?」

「着いたら分かるよ」

上機嫌な春が郁を連れて向かったのは、郁があの男と会ってしまう前によく12人で行っていた料亭。

プライベートは完全に守ってくれるので安心して利用出来る……のだが。

「あの……春さん?ここ、別に携帯持ち込み禁止とかじゃないですよ?」

「ん?持ち込み禁止だよ。郁にとってはね」

「俺にとっては?」

春が個室の扉を開けた、その部屋の中。

「あ、来たねいっくん」

笑顔でひらひらと手を振るのは、隼。その隣には始もいる。

「ね?携帯持ち込めないでしょ?よかったね、ストラップだけ持って行けなんて言わ」

「春。郁もう聞いてない」

ぽんと肩を叩いたのはいつの間にか隣に来ていた始で、始の視線の先には。

「隼さん……隼さん、隼さっ……」

「うん。「久しぶり」、いっくん」

泣きながら隼に抱きつく郁の姿。

「隼さん、」

「なぁに、いっくん」

名前を呼ぶ郁も、呼ばれる名前に律儀に返事をし続ける隼も幸せそうで。

けれどすぐに。

「寝たか」

「うん」

「早かったね」

「最近は少し眠れてるようだけど、熟睡は出来ないって言ってたから」

温もりに安心して抱きついたまま眠ってしまった郁の体に自分のジャケットをかけ、その髪を撫でる隼の顔はどこまでも慈愛に満ちていた。


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