11月と10月のお話
□[12]許せない思いを秘めて
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「1ヶ月前からつけてるストラップ。あれも?」
正解を示すようにピクリと反応はしたが、それ以降は郁はずっと首を横に振り続ける。
「通信が途絶えたら、何?郁じゃなくて僕に、何かするって?」
「……!ぅ、……うっ……」
郁は、隼がどこまで分かっているかまだ知らない。けれど、隼にはその郁の涙がどこから来るのか分かってしまった。
「もしかして、僕だけじゃなくて他のメンバーも?」
郁は顔を覆って俯いたまま泣き続ける。
隼が抱きしめても、震えも涙も止まらない。
「……もしかして」
葵が、一つの可能性に気付きぽつりと呟いた。
「それって……俺達グラビも対象だったりする……?」
「……っ、う、あ……っ!!」
郁は、もう言葉にならなかった。我慢出来ずに声を上げて泣いて。
それは肯定の合図。
郁が守ろうとしていたのは自分だけじゃない。
まさか皆もターゲットだとは隼も想定していなかった。
自分1人なら何があっても何とか出来ると思っていた。けれど、それが皆もとなると話は別だ。
(あの男……っ!)
「なさっ……」
男に対する隼の怒りが沸点を超えた時、腕の中で小さく聞こえた声に隼は我に返った。
「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさいっ……俺が、うまく、隼さんをごまかしきれなかったから、だから、っ、ごめ、んなさいっ……」
震え続ける小さな体。ずっと、1ヶ月もの間ずっと、1人で戦ってきた郁。
隼はゆっくりと優しく、労るように背中を撫でた。
「大丈夫だよ。控え室の話を聞いてた限りじゃ、あの男は今油断してる。大丈夫だよ、いっくん」
「さっきの、……聞いて、」
「僕も同じ気持ちだよ。僕も、いっくんがいなくなったら生きてなんかいけない」
「……!!」
「ねえ、名前を呼んで」
「泣きそうな、声で、名前を呼ばれるのは……聞きたくないんじゃなかったんですか……」
「泣きそうどころか、ボロ泣きだけどね。今のいっくんは」
「……隼さん。……隼さん、隼さん、隼さんっ……」
「うん、ここにいるよ」
強く抱きしめて、顔を上げる。
「葵、新。始と春を呼んで。そして君達は郁を連れて先に控え室へ。……あとは計画通りに」
「……本当にいいんですか?」
「いいよ」
そんな3人のやりとりに郁は訳が分からず隼の顔を見る。
「言ったでしょ?もう大丈夫だよ」
優しくキスをして、もう一度抱きしめた。
郁はまた泣いたけれど、今までの涙と同じでない事は、表情が物語っていた。
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やっとここまで来た(´△`;)