11月と10月のお話
□[12]許せない思いを秘めて
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「……ちっ」
らしくなく漏れた舌打ちに、郁がビクリと怯えて体を揺らす。
「というかさ、」
偶然を装い頬に流れる涙を拭き、置いていたお守りをもう一度持ち上げる。
「やっぱり気にいらないね、これ」
「だめっ……!隼さん、だめっ……お願い返して、それだけはっ……」
「うるさいな」
「んぅ……!」
弱弱しい抵抗は、簡単にキスで押さえつけて。
「こんなものいらないよね?お守り持っておきたいなら、僕が買ってあげるから。他の男からもらったのなんて、身につけないでよ」
「返してくださっ……」
「嫌。とりあえず、これは廃棄処分ね」
郁に見えるように、目の前でお守りを床に落として。
まだ一度もまともに顔を合わせていない例の男をそれに見立てて。
思い切り、踏みつけた。
「嘘……嘘!だめ、これがないと……っ!」
原形をとどめていないお守り。
「あ……あ、あぁぁっ……」
「郁」
ガタガタと体を震わせて泣く郁を、後ろから抱きしめる。
「……郁」
少し力を込めても、郁の体の震えは止まらない。
「そこまでです、隼さん」
言葉と同時に、がしっと肩を掴まれた。
それは新で、後ろにいた葵が郁の手からお守りを持ち上げ中に入っていたものを取り出し、険しい表情のまましばらく無言でいるとやがてバチバチッとショートするような音が聞こえ。
「……うん、OK。ここまでやられちゃさすがにね」
葵は、それを乱雑に床に放り投げた。
「ん。もう大丈夫だよ、郁」
よしよしと新に頭を撫でられるが、何がOKで何が大丈夫なのか郁には意味が分からない。
「……?……葵、さん、新さ……」
「いっくん」
後ろから抱きしめていた体をいったん離し、半ば無理矢理自分の方を向かせる。
「よく今まで1人で頑張ったね」
「え……」
久しぶりに呼ぶあだ名。郁は目を大きく見開かせる。
「もう大丈夫だよ。もう、「誰も聞いてない」から」
「……っ、何でその事知っ……」
知ってるんですか、と続いただろう言葉は途中で止まった。
郁の顔はみるみる青ざめていき、さっきよりも大きく体を震わせる。
「駄目だ……いつまでもここにいちゃ、早く控え室戻らなきゃっ……」
「いっくん?落ち着いて、もう大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない!大丈夫じゃないです!俺からの通信が途絶えたらあいつ、」
「あいつ?」
隼が聞き返すと、郁は涙を流して口を押さえ、その場に座り込む。
想定していないわけではなかった。