11月と10月のお話

□[12]許せない思いを秘めて
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「分かってるよ、君達はお互い愛し合って、好きで付き合ってるんだ。毎日を幸せに満たされて生きる君達に、ちょっとスパイス加えてやろうって、それだけの話じゃん?そんなかっかしないでよ」

(ふざけるな)

「分かってるよね?誰か一人でも知っちゃったら……」

「知らない!誰もっ……誰も知らないから、だからっ……!」

(ふざけるな)

今すぐ出ていって殴ってやりたかったけれど、現時点で男に「自分が郁の味方である」事を知られるわけにはいかず。

ぐっとこらえ、男が出てくる前にまた身を潜めた。

出ていった後、控え室から聞こえた郁の泣き声。

(ああ、いつもそうやって、泣いていたんだね)

早く、早く、早く早く。

(この腕で、思い切り抱きしめてやりたい)

溢れそうになる激情を、必死で押し込めた。






指定したスタジオ。もちろん誰もいない。

「おはようございまーす」

挨拶をしながら入ってきた郁も、異変にはすぐに気付いたらしく息を飲む音が聞こえた。

気配を殺してゆっくりと、扉に向かおうとしていた郁の腕を後ろから抱き込むようにして掴む。

「いい勘してるね」

「しゅ、ん、さっ……」

「正解」

ふっ、と息を吹きかけると、郁の足の力は簡単に抜けた。

(相変わらず、敏感だなぁ)

ついほころびかけた顔を郁が気付かないうちに引き締めて。

「何、感じた?相変わらず敏感だね、郁」

くすくす笑って抱き上げると、最後に抱き上げた時より明らかに軽い。

(やっぱり、痩せてる……)

「おろ、してっ……」

「はい暴れない暴れない。どうせ僕からは逃げられないんだから」

放り投げたら壊れそうで、じたばた暴れる動きを押さえつつゆっくりと郁をソファに下ろした。

「んっ……」

額を押さえつけてそのままキスをすると、それまでの抵抗はあっさりと止んで。

その隙に、郁のパンツのポケットに手を伸ばした。

「僕から離れてからさ……大切に持ってるよね、これ。誰にもらったの」

隼の手に収まったお守りを見て、郁の顔が強ばる。持っている事を隼に気付かれているとは思っていなかったらしい。

「返してくださいっ!」

その必死さに、自分の仮定は正しかったのだと確信した。

始と春が部屋に来た時に言った事は、郁にとっての「最悪」を想定しての話だ。

それがすべて真実なのだとしたら、ここまで思った通りだと胸がムカムカしてしょうがない。

何故、自分じゃなかった。

(何故、郁がこんなに苦しまなきゃならない)


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