11月と10月のお話
□[10]本の意味
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春から預かった、郁に返してもらった本。
それに挟まっていた手紙を読んですぐに、始は隼の部屋に向かった。
「隼、まだ起きてるか?」
コンコン、扉をノックして声をかけると、程なくして扉が開き隼が顔を見せた。
「帰ったんだ、おかえり始」
「ああ、ただいま。少しいいか」
「どうしたの?始が僕の部屋を訪ねるなんて珍しい」
どうぞ入って、と笑顔で促され中に入る。
「隼、この本覚えてるか?」
トン、とテーブルに本を置くと、隼はちらりとそれを見てもちろん、と笑う。
「前に、始が郁に貸してあげた本だよね。返してもらったんだ」
「ああ」
それはまだ郁があんな事を言い出す前。最初は隼に持っていないか聞いてきたがあいにく持っておらず、始が持っているのを知っていたため隼が郁に貸してもらえるよう始に頼んだ本だ。
「そんなに時は経ってないのに、すごく昔の話のような気がするよ」
顔は笑っているけれど、感情が読めない。
「何で返してきたんだと思う?」
「何でって?読み終わったからでしょ」
この時隼には始が何を言いたいのか分からなかったけれど、始の望んだ答えではないんだろうとは感じた。
「読み終わったから返した」、そんな分かり切っている事をわざわざ言うためにくるほど始は暇じゃない事くらい知っている。
だが、真意が読めない。
始も、今は隼が何を考えているか分からない。だからこそ、下手な事は言えない。
「……これからどうするんだ、郁の「ねえ始」」
始の言葉を遮って、続ける。
「あの子が何故こんな事してるのかは分からないけど、僕はあの子を手放す気はないから」
「な、に……?」
「こんな理解不能な事されても、嫌いになれないんだ。どうやら僕は、自覚している以上にあの子を大切に思ってるらしい」
どこか他人事な物言いに加えて、結構一途でしょ?と笑うと、異変を感じた始が眉をひそめる。
「……何する気だ」
「郁と付き合い始めたばかりの頃、僕が言った事覚えてる?」
「は?」
「それを思い出せば、僕が何をしようとしてるか始なら分かるよ」
「気の済むまで付き合って上げようかな」
海にはそう言ったけれど。
いつまでもこのままの状態を維持するつもりはない。
突然あんな事を言い出した理由の他にも、何かを隠しているように感じた。
確証はないけれど、キスを手の平で拒否した時の表情が忘れられない。
『こんな事になってごめんなさい』
まるで、そう言いたげだったから。
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春さん書きやすいなー( ̄▽ ̄)