11月と10月のお話
□[9]ゲームオーバー
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翌日は、朝から新聞もワイドショーも騒がしかった。
俺はどこか穏やかな気分で、テレビを見つつコーヒーを飲んでいた。
これから彼らの周りはしばらく騒がしくなるだろう。
2人はもう別れているのに、熱愛について面白おかしく聞かれるほど気が滅入る事はない。
もう別れたと言えば言うほど、2人の熱愛を受け入れられないファンですら、マスコミは特に勝手な想像をして変に勘ぐる。
精神的に疲れ切るだろう郁君の怒りはきっと、俺に向く。
それでいい。そうやってやがて郁君が俺だけ見てくれれば……。
(っておい、何考えてんだ俺)
自分の思考に首を傾げているとテレビに彼らの所属事務所が映り。
生放送らしいそのカメラの前に朝も早いのに現れた車の中から出てきたのは、隼君達。
『霜月君!この記事は本当ですか!?』
『神無月君も何か一言!』
『文月君達他のメンバーはこの事は知ってたんですか!?』
隼君は普段と変わらない様子で、郁君は幾分元気がない様子で。
記者からの矢継ぎ早の質問に、事務所の入り口前で6人並んだ。
言葉を聞き逃すまいと記者達が一旦静かになりシャッター音だけが響く中、隼君がいつもの笑顔を見せて。
耳を疑う言葉を、口にした。
『どこから漏れたのかは知らないけど、とうとうバレちゃったね、郁。本当の事だから訂正のしようもない』
「…………は?」
それは、郁君も。
『当事者が他人事みたいに言わないでくださいよ……俺は胃が痛いのに』
他の皆も。
『つーかむしろ、今までバレてなかった方が奇跡だろ。あー、始さんの呆れる姿が目に浮かぶわ……』
『俺も陽と同感。いっくんのハラハラする姿は何度見たかは数え切れないくらいだけど』
『いっくんはともかく、隼はバレないように隠すのうまかったから』
『俺らもだいぶガードしてやってたけどな。でもバレたならこれから隼のおもりは郁に丸投げ出来るって事だな』
『えっ、たまには手伝ってくださいよ海さん』
『郁?それはどういう意味かな?』
『そのままの意味ですっ』
「……何だ、これ、」
皆の、一切否定しないむしろ肯定を強調するような会話に、また記者からの矢継ぎ早の質問が飛び交い、あまりの騒ぎに規制に出てきた事務所スタッフに囲まれるようにして、中へと入っていった。
「何だ、こ、れ、」
意味が分からない。
彼らは別れたんじゃないのか。「訂正のしようもない」ってなんだ、それじゃあまだ付き合っているみたいな口振りじゃないか。