11月と10月のお話
□[8]別れの時
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しばらく動きを見せなかった隼君は、予想する間もなく突然動いた。
郁君はアイドル活動の他に学校で陸上もしている。
今日は部活の練習で、明日は仕事がないからといつもより遅く練習に残っていた。
「郁、お疲れ」
「神無月、あんま無理すんなよ」
「はい、お疲れさまでした」
声をかけてきた先輩から部室の鍵を受け取って見送ったら、郁君1人になる空間。
着替え終わった頃を見計らって俺がいつものようにメールを送ろうとするより先に、着信が入った。
「はい、もしもし……っ!」
郁君が声を詰まらせる。少し漏れ聞こえた声は、今もっとも郁君が2人きりでは会ってはいけない、隼君。
『……ふぅん、案外無防備に出るんだね。それとももう僕の番号なんか消したから、誰か分からなかった?』
「隼、さんっ……」
『今まだ学校だよね。そこ行くから、いてね』
「や、ですっ!来ないで、くださいっ」
『嫌だね。せっかくここまで来たのに』
「ここまでって、」
『「ここまで」』
二重で聞こえた、同じ声。それと同時に、開く部室の扉。
「まったく、始も春も無防備だね。郁が1人になるの分かってて、迎えにも来ないんだから」
「どうやってここまでっ……」
「前に郁が教えてくれたでしょ、部室の場所」
忘れたの?とクスクス笑って。
「僕も馬鹿だよね。何も無理に仕事場で接触しようとしなくても、邪魔が入らないとこだったらうってつけのとこあったのに」
こことか。と付け足して。
「やっ……っ……」
隼君の吐息が近くに聞こえる。
「やぁっ……」
助けるつもりなんてなかった。
今日は邪魔が入りそうになかったから、俺も最後まで楽しませてもらって、それから郁君に「ゲームオーバー」を告げるつもりだったんだ。
だけど、必死で拒否しようとする郁君の声を聞いてたら、衝動的だった。
気がついたら、部室の扉を開けていた。
「恋人に対して随分手荒なまねするんだね、隼君?」
「……どちら様?」
若干冷静な隼君とは違い、郁君は見て驚きに目を見開き。
隼君を止めたのが他でもない俺……隼君をここまで追い込んだ張本人なのだという事実に気付いて悔しげに唇を噛んだ。
「その前にさ、郁君解放してやらない?そんな扇情的な姿見せられたら、さすがにクルんだけど」
俺の言葉に、隼君が郁君の上から退いて郁君は急いで服の乱れを整える。
「改めて聞く。あんた誰」
言葉使い悪くなったけど。……ま、いいや。