11月と10月のお話
□[3]最初の異変
1ページ/4ページ
「夜さんすみません、撮影の件で隼さんに呼ばれてるので、少し出てきます」
「……うん分かった、海さんにそう伝えとく」
前よりは素っ気ないけどちゃんと答えてくれた夜さんにお辞儀をして、隼さんに資料を届けるため控え室を出て隼さんに指定された場所へ向かう。
撮影が終わったばかりの第三スタジオ。やけに人影がなく、静かだった。
「隼さん?……あれ、場所間違えたかな」
一度出て、スタジオ名を確認する。確かに第三スタジオだ。
「あれ?」
もう一度スタジオに入る。そう広くないスタジオ、歩き回っても隼さんの姿は見つからない。
上のほうで物音が聞こえた気がして階段を上って2階に上ると……最奥のソファに、人影が見えた。
「……隼さん?そこにいるんですか?」
いつものように優雅に足を組んで、そこにいたのはやっぱり隼さんだった。
「やっと来たね。郁、こっちにおいで」
どきんとした、隼さんの声。
感情の見えない声に顔を向けると、手を差し伸べている隼さん。……その顔に。
不覚にも、魅入ってしまった。
「……あの、撮影あったんじゃ?何でこんなに静かなんですか?」
「撮影?……ああそうだった、僕そんな理由で君をここに来させたんだったね」
クックッとおかしそうに笑う。……何?何かが、おかしい。
(……っ、やばいっ……)
隼さんが、ゆっくりとした動作で立ち上がる。今逃げなきゃやばい、それは分かったけど足が動かない。
「ねぇ、僕じゅうぶん待ったよね。そろそろ教えてもらってもいい頃だと思うんだけど」
「……っ」
さっきより少し感情の見える、いつもよりトーンの低い不機嫌そうな声。
理由も聞かされずの絶縁状態だ、そろそろ我慢の限界じゃないかなとは思っていた。
気をつけてたのに。
「隼さんだけ撮影第三スタジオなんですか?」
さっき、何でそう確認しなかった?聞けば夜さんだって答えてくれたはずなのに。
隼さんが、少しずつこっちに近づいてくる。
無表情だった顔が、俺に近づくにつれ恐ろしいくらい鮮やかな笑顔に変わっていく。
「何で僕らこんなんなっちゃったのかな?答えてよ」
「え……っ、ちょっ、やめっ……!!」
ガタン!
後ろにあった大道具に足がぶつかる。痛かったけど、今はそれに気をとられてる場合じゃない。
逃げようとしたけど、一瞬早かったのは隼さんの方だった。
腕を強く引っ張られたかと思うと、積み重ねてあった壁際のシーツの上へと放り出されて。