another story
□通常黄黒の黒子がもしもシリーズの世界に遊びに来たよ。
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とっさに顔の前で手でガードすると、黄瀬の唇がふにっと柔らかく手のひらに触れた。
「ほらね」
「何がですかっ」
黄瀬は余裕な表情でおかしげにクックッと笑う。
「黒子っち、相当好きっスよね。「自分の世界にいる俺」が。今ここにいる俺と、同一視してないんじゃない?」
「君は誰ですか。ボクの知る黄瀬君はそんなにお利口じゃありませんよ!」
我ながら何を言ってるんだと思ったけれど、早く距離を取りたくて言葉の勢いで黄瀬から離れる。
「だって黒子っち分かりやすいんスもん。自分が違う世界に来てるって分かってからは、俺の事まだ1回も名前で呼んでくれてないし」
「……!」
「俺はね、基本的に「俺の黒子っち」以外はどうでもいいって思ってるから。どっか俺に違和感覚えてるんじゃない?」
自覚は多少あるのか、と思った。
「……それはボクも例外ではないという事ですか」
「だって今ここにいる黒子っちは「俺の黒子っち」じゃなくて黒子っちの世界の俺のでしょ。「人のもん」にキョーミないし、俺」
「でもボクの世界の黄瀬君は、今頃この世界のボクにデレデレだと思いますよ。ボク、普段から彼に甘えるという事をあまりしないので」
「話を聞く限り、そうみたいっスねぇ。でもしょうがないんスよ、俺の黒子っちは俺にひっついてないと精神の安定保てないんスから。きっと、部活だけでも海常で、って事になってると思うっスよ」
「君はそれでいいんですか」
「黒子っちが心穏やかに過ごせるなら、何でも利用するっスよ」
黒子が何を言っても、黄瀬は余裕な表情を崩さない。本当に調子が狂う。
「聞いていいですか。もし「ボク達」が元の世界に戻った時、この世界のボクが君の言った通りの事をしてたりしたら、どうしますか」
「浮気しましたごめんなさいって謝るだろうから、めっためたに甘やかしてそっちの世界の俺の事なんか忘れさせてやるっス」
「自分に嫉妬ですか」
「俺じゃない「俺」なんて、ある意味一番厄介な「敵」じゃん」
俺の黒子っちは俺だけのものだから、とさらりと言った黄瀬の表情は、黒子の知らないものだった。
「さすが海常、練習メニューは誠凛の比ではありませんね……」
その日の部活、練習開始1時間で黒子はすでに床と仲良くなっていた。
「体力無いのは同じなんスねぇ。抵抗あるかもしれないけど、ちょっと我慢してね」
癖なのか黄瀬はよく黒子の頭を撫でる。
今も一撫ですると、黒子をふわりと抱き上げた。
「ちょっ、何す、」
「シー。俺の黒子っちはいつもこうして俺が運んでんの。皆にとってはこれが日常だから、気にしない気にしない」