another story
□もしもシリーズの黒子が通常黄黒の世界に遊びに来たよ。
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人生とは時に不思議な事が起きるもので。
黄瀬の仕事がない日の日課は、誠凛まで黒子を迎えに行く事。
いつもなら、まだ部活中の体育館に行けば黒子に「なぜいるんですか」と冷たくあしらわれ、忠犬よろしく体育館の外で待っていて、出てきた黒子に「まだいたんですか」と言われる。
黄瀬が来た時は、まだ部員の声や時たまリコの怒声、ボールがゴールネットをくぐる音やドリブルの音が聞こえてくるが、今日はやけに静かだ。
「こーんばんはー……」
静かな中、しかも他校で賑やかに入るのはさすがの黄瀬もためらわれて、遠慮がちに扉を開け声をかけた。
バスケ部の皆は、確かに中にいた。
けれどその中で誰よりも早く反応したのは、皆の中からひょこりと顔を見せた黒子で、黄瀬を見て嬉しげに顔をほころばせる様子に一瞬固まってしまった。
(黒っ……黒子っちが不意打ちでデレた……!)
黄瀬を見て嬉しげに笑い、あまつさえ頬を染めるなんて今までになくて顔がにやけそうになったけれど、黒子が目の前に来るとどこかいつもと様子が違うことに気がつく。
「……黒子っち?」
「はい、何ですか黄瀬君」
「どうか、した?」
何か違和感がある。けれどそれをはっきりと説明は出来なくて、要領を得ない曖昧な聞き方になってしまったがそれだけで黒子には黄瀬が戸惑っていると映ったらしく、途端にしゅんと眉を下げて落ち込む。
こんな風に、短い間に色んな顔を見せてくれるのも稀だけれど。
「……やっぱり黄瀬君も、ボクの黄瀬君ではないんですね……」
寂しげな声音で続いたそんな言葉に、黄瀬の脳内はパニックになった。
(え?今の聞き間違い?え今言ったよね黒子っち言ったよね「ボクの」黄瀬君ってええええ黒子っちどうしたんだろいやでもめっちゃ可愛いいいいいい!)
「落ち着け」
黄瀬の考えが読めたのか、火神がバシンと頭を叩く。
そんな火神に、黄瀬が痛いっス!と反応するより先に反応したのは、またもや黒子で。
「ちょっと火神君、何するんですかっ」
「へ、」
「モデルのお仕事に差し障ったらどうしてくれるんですか、黄瀬君大丈夫ですか?」
本気で心配そうに、黒子は黄瀬の服を掴み背伸びをして、よしよしと黄瀬の頭を撫でる。
「…………」
今の黒子は、完全に黄瀬の予想の範疇を越えている。
混乱しかけているのが分かったのか、助け船を出したのはリコだった。