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□ピアス記念日
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*夏休み*
黒子がバスケ部を辞めて数日後の夏休み最終日を前日に控えた8月30日、黄瀬がピアスを開けた。
その耳に光るのは前もって黒子と一緒に買いにいったシルバーのリング型のピアスで、太陽の光に反射した黄瀬の髪と連動するようにきらりと光り、黒子は目を細めた。
「とってもお似合いです、黄瀬君」
「そう?ありがと。でも、俺に似合うのは当然っスよね。何せ、黒子っちが俺のために悩んで悩んで選んでくれたものなんスから」
お礼、と頬に軽くキスをすると黒子は嫌がる素振りも見せずくすぐったげに首をすくめて嬉しそうに笑った。
「黄瀬君は何でも似合います。だから、迷いました」
「俺は、俺のために悩みながらピアスを選んでくれる可愛い黒子っち見てて、抱きしめたい衝動を抑えるのが大変だった」
「家に帰った時、ぎゅーって抱きついてきた黄瀬君は可愛かったです。もっかいぎゅうしますか?」
どうぞ、と黒子は躊躇なく腕を広げた。
もしも今の黄瀬の言葉が、4ヶ月前までだったら黒子はこんな反応は返さない。
けれど、黒子は黄瀬に側にいてほしいがために無理をしているわけではない。
黄瀬に依存する前の記憶をなくしたわけでもない。
ただ、黄瀬への依存が理性という「箍(たが)」を外してしまっただけ。
箍が外れたそこから溢れ出た本能は、黄瀬が知っていた以上に甘くて、愛しくて。
「じゃあ遠慮なく」
「はい」
優しく抱きしめるとふにゃっと緩んだ表情にふっと笑みをこぼして、黄瀬は片腕を黒子の腰に回し片手でポケットを探って目当てのものを見つけると、黒子の手を取りそれを乗せる。
「これ、黒子っちが持ってて」
それは、片耳しか開けなかったため出番のなくなってしまった、ピアスの片割れ。
「えっ、でも、」
「ね、いいでしょ?黒子っちはピアス開けないだろうけど、持ってるだけでもお揃いっスよ」
「……はい。ありがとうございます」
黄瀬は大切そうにピアスを両手で包み込んで笑う黒子の頬に手を添え、キスをする。
黒子は黄瀬から与えられるその温もりが嬉しくて、知らず笑みをこぼした。
(今日はピアス記念日ですね)
目を閉じる瞬間に見えた、きらりと黄瀬の耳に光るピアス。
黒子の中にまた一つ、黄瀬との幸せな記念日が出来た。
end
in黄瀬家。
ちょっとでもイチャ付く要素があったらイチャ付く2人。なくても作ってイチャ付く2人。
ピアスが片耳なのはおしゃれじゃなくて、左開けたら思いの外痛かったから右は開けなかったんでしたよね(笑)。
何気にanother三作目に書いた話だったりします。せっかくなので今日アップしようとぬくぬくに暖めてました。
更新日>>2014.8.30