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□秋祭りにて。〜慣れたくなんかない〜
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黄瀬と黒子に対する回りの認識は「バカップルの見本」、「喧嘩した事ない仲のいいカップル」、「海常にいる黄瀬ファンの癒し」。
けれど、黄瀬達と一緒にいる機会の多い笠松達バスケ部の面々は、それだけではない事をすでに理解している。
今までにも、その片鱗はあった。
例えば、I.H前に海常まで黄瀬と黒子に会いに来た桃井の笑顔は、どこか寂しそうだった。
彼女が帰った後に来た黄瀬と黒子が話している時、2人の様子もいつもとは違う雰囲気で。
I.Hで桐皇と戦う前も、黒子の様子がおかしかった。
その2人の関係性は、火神も何となく気付いている。
例えば、I.H予選決勝リーグの秀徳との試合後のお好み焼き屋で、あの緑間が珍しく歯切れを悪くさせた。
そしてその後の、緑間を見た黄瀬の冷たい瞳。
I.H後にストバスの大会で紫原に会った時も。
あの時の紫原の言葉は、きっと自分達が考えている以上に黄瀬と黒子にとっては深い意味があるんだろうと。
それは薄々感じ始めているけれど。
「あ……っ」
「黒子っち!」
ガクンと、黒子の膝が折れる。
それに真っ先に気付いたのは黄瀬で、急いで黒子の元に戻る。
「黒子っち大丈夫!?ほら掴まって」
「黄瀬君……ボクはもうだめです。だから、せめて君だけでも逃げてください……」
「やだよ、そんなん出来る訳ないじゃん」
黄瀬は優しく黒子を抱き起こし、愛しげに髪を撫でる。
「ずっと一緒って言ったじゃないスか。置いてなんかいけない」
「黄瀬君……」
「大丈夫、俺がついてる。何も怖くなんかないから」
「はい」
安心しきった顔で黒子は目を閉じ、黄瀬に体を預けた。
その時。
「てめえらいつまで似非ドラマしてる気だ、んな暇あんならとっとと走れ!」
聞こえたのは、火神の怒声。
その後ろには里内もいて、生温かい目で3人のやりとりを見ている。
「似非って何ですか火神君、ボクらはいつだって本気です」
「なお悪いわ!お前ら今の状況分かってんのか!?」
「じゃあ先に行ってくださいっス。俺と黒子っちは、掴まるのが分かっててもここにいるっス」
「それじゃ意味ねえんだよ!……あ゛ぁ!?」
ぽんと肩を叩かれて火神がマジ切れの表情そのままに振り向くと、里内がそれに臆する様子もなく火神の目を見ながら首を横に振った。
「火神。話だけ聞いてたらお前も十分に似非ドラマのキャストだぞ」