高黒
□[15]心情の欠片ーpieceー
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その50年以上も後の、それから更に60数年後。
「ただいまー」
声をかけると、自然に開く玄関の扉。
中からは、見知った笑い声が聞こえてくる。
『お帰りなさいっス高尾っち!……間違えたご主人様』
「おめーそれそろそろわざとだろ」
ジョーヌ、と高尾は空間に向かって話しかける。
「ご主人様も頼むからヤメテ。涼ちゃんに言われてるみてえ」
高尾がジョーヌと呼んだのは、この家のセキュリティーシステム。
どことなく、と言うよりまんま黄瀬なそれは赤司が高尾と黒子の「婚約祝い」としてプログラミングして2人の住む家のセキュリティーにインストールしたものだ。
『だってマスターが面白がって俺の口調と音声設定リョウタのにしたんスもん』
「ジョーヌ」は、フランス語で黄色の事。
このプログラムが出来た時紫原がインド料理に続いてフランス料理に凝っていて赤司もいたくお気に召したようで、その場のノリで付けた。
一生物のセキュリティープログラムの名前をその場のノリで付けるのはどうかとは思ったが(「ヴィオレット」も然り)、黒子が黄瀬君そっくりなのでいいんじゃないでしょうかと気に入ったみたいなので良しとした。
「賑やかだな、皆来てんの?」
『来てるっスよ。テツヤは寝てる。マスター達が来た時起きたけど、眠かったみたいでリョウタと一緒にまた寝たっス』
「そか、ありがと」
短く返して、高尾はリビングに向かう。
「あー高ちんお帰りー」
「お帰り、邪魔してるよ。テツヤは、」
「ジョーヌに聞いた、涼ちゃんと寝てるんだって?ちょい見てくるわ、あの2人並んで寝てるとマジ天使だし」
「テツヤはともかく、涼太には黙っておいた方がいいね。嬉しさのあまり力の限りで抱きついてくるぞ」
「うんだから黙ってる」
分かってますとも、と、肩をすくめる高尾も黄瀬の見た目からは想像の付かない腕力は前に一度オチかけた経験がある。
穏やかに笑みを見せた赤司に高尾も笑みを見せて、「見るだけじゃなくて起こしてきて、ご飯だし」と言う紫原に分かったと返して寝室に向かう。
高尾が近付いただけでセンサーが反応し開いた扉の向こう、間接照明の付いた部屋の中でベッドに水色と黄色の頭を見付ける。
寄り添ってすよすよ眠る2人は実に気持ち良さげで、実に、
(マジ何なのこの可愛さ)
「テッちゃん」
ベッドサイドに座り、黒子の名前を呼ぶ。