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□えんきょりれんあい
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ていん、ていん
今日も、帝光バスケ部一軍が練習している第一体育館には天使がゴムボールをつく音がする。
ていん、ていん
「えいっ」
近くから放ったボールが、放物線と呼ぶには拙いそれを描いてゴールに吸い込まれる。
「さすが黒子っち、ナイシュ!」
それは今や当たり前となった、紫原に抱き上げられてのシュートなのだが、いつものように手放しで黄瀬に褒められ紫原に抱き上げられた状態のままの黒子はご満悦そうに笑う。
本来ならば部活で汗を流しているはずの時間。
現に、「キセキの世代」と呼ばれる黄瀬達以外の一軍部員は隣のコートで練習をしているが。
能力を開花させた後は、練習しなくても試合で勝てるため練習らしい練習をしなくなった5人。
こうやって集まっているのすら珍しいのだが、それをさせているのが黒子だ。
本人に、その自覚はないけれど。
「紫っち、黒子っち返して欲しいっス」
「えー、やだ」
不満げに口をとがらせて、紫原は黒子を肩車する。
「たかいですねえ。ボクもむらさきばらくんみたいにおっきくなれますか?」
「まいう棒毎日食べてたらなれるよー」
「適当な事言うんじゃねえよ紫原」
色黒の腕が伸び、ひょいと持ち上げられた黒子の体が浮く。
「ちょっと青峰っち、そんな雑な抱き上げ方やめてほしいっス」
「あおみねくんあおみねくん、ぐるぐるひこーきしてください」
「ぐるぐるひこーき?」
何の事スかと首を傾げる黄瀬の前で。
「お、やるか」
青峰が黒子を一旦下ろし、伸ばされた両腕を掴んでそのままぐるぐると回り始めたものだから、黄瀬としてはたまったものではない。
「ギャー!青峰っちやめてぇぇぇ!」
ひいいい!とイケメンモデルの面影をなくすほど青ざめて、やっとの思いで黒子を奪い返してぜぇはぁと息を付く。
「大げさだな」
そんな青峰の前で、桃井が仁王立ちで睨みつけた。
「大げさなんかじゃないわよっ!もし落としちゃったりしたらどうするの、テツ君は私達よりか弱くて可愛い天使なんだから!」
「へいへいすいませんね」
「桃井の言う事はもっともだが、黒子自身は楽しそうなのだよ」
テーピングをしたままの指を眼鏡のブリッジにかける緑間の言う通り、黒子はいつになくキャッキャとはしゃいでいる。
「たのしかったですよ、ぐるぐるひこーき」