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□その笑顔に
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にっと悪びれずに笑うから、黒子は一瞬きょとんとした後笑ってため息をつき携帯を取り出した。
この日は連絡先の交換だけして、助けてもらったお礼をもう一度してから別れた。
けれど、目当ての本を手に入れて読み始めても、ふとした瞬間に高尾の笑顔と助けてくれた時の腕の力強さを思い出してなぜだろうと首をひねる。
それでもそれは初めて彼の意外な一面を見たからだと、自分に言い聞かせた。
それから高尾とは何度か会った。
付き合ってみると高尾は中々人なつこく無邪気で、試合中とは本当に別人で。
何より。
「黒子!」
黒子が何か言葉を発するより先に黒子を見つけて、そして笑う。
その笑顔につられて笑うと、より以上の笑顔をまた返してくれるのだ。
初対面の時に感じた印象なんて、とっくに180度ひっくり返っている。
「合宿ですか。その期間ならうちも合宿ですよ。昨日聞きました」
「そうなんだ。うちは海の近くの波切荘って民宿を宿にしてやるらしいけど」
「え、うちも泊まるとこそこなんですけど」
「マジ?じゃあ合宿中も会えるじゃん」
2人がいるのはマジバ。
ハンバーガーにかぶりつく高尾の前で、黒子はいつものようにバニラシェイクを飲んでいる。
「それは……緑間君がどう思うか」
「緑間?」
(あれ?何でしょう)
高尾が、分かりやすく不機嫌になった。
「今日は真ちゃんて呼ばないんですね」
「何でそこで緑間の事気にすんの?」
突っ込んでみた黒子の言葉には反応せず、高尾は不機嫌というより拗ねたようにテーブルに肘をつく。
「緑間君とは、中学時代からあまり気が合う方ではありませんでした。なので、「自分の相棒」がボクと仲良くしてるところを見たら君から話を聞いて知っていても、実際は面白くないんじゃないかと思っただけです」
「ボクと仲良くしてる、ね……」
ボソリと呟いたその声は黒子には聞こえなかったけれど、高尾はそれまでの不機嫌が嘘のようにまた笑顔に戻った。
「だいじょーぶ!真ちゃんにはまだお前と仲良くなった事話してねえし、気になんなら別に仲いい事特別話さなくてもいいし」
「(あれ、真ちゃんに戻りました)……そうですね」
「黒子は?俺とこうやって会ってんの火神とかに話してんの?先輩達とも随分仲いいみたいだし」
「話してません。聞かれないので」