高黒

□[13]幸福の連鎖ーhappinessー
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協議に協議を重ね、正式に許可が出たのはそれから一週間後だった。

あのファイルは、今は黒子の手元にはない。

貴重な資料だからと、研究施設に預けざるを得なくなってしまったのだ。

けれど、研究施設に持って行く前にコピーしてくれていたものを、画質は悪いが黒子は繰り返し見ている。

そうして、過去に飛ぶ日時が決まった頃。

「え、面会謝絶?」

最近、赤司が部屋から出てこない。
疑問に思って部屋に行こうとしたら、ヴィオレットに部屋へと続く扉のパスワードを変更されてしまった。

『ごめんねーテツヤ、マスター今大忙しなんだー。ある可能性を検証するんだって』

「何に対する可能性ですか?」

『ひーみーつー』

それを最後に、ヴィオレットもぷつりと黒子の持つタブレットからログアウトした。

「赤司っち、俺にも教えてくれないんスよ。俺寂しいっス」

まるで迷子の子犬のようにしゅんとしている黄瀬の頭を、黒子はすぐ出てきますよと撫でた。



タブレットの中の高尾はいつも笑顔だ。

動画の中で、高尾はまず黒子に尋ねた。

「ねえ、テッちゃん今笑ってる?」




そして黒子との再会の時の事。

「後ろから抱きつかれてさ。すぐに分かった、テッちゃんだって」

愛の力!とブイサインを作ってにっと笑った高尾に。

「馬鹿ですか君は」

と、黒子自身の声が小さく入っていた。

最初に赤司と黄瀬が見た時には分からなかった。

画像と音声の状態があまりよくなかったから、精度を上げてみて初めて気付いたくらいに小さな声だった。

こんな事態、誰が予測出来ただろうか。

60年も前から存在していたそれに、今だ自分ですら知らない「未来の自分」がいたなんて。



そして、タイムスリップする日。

「ボク、高尾君には何も言いません。高尾君がボクにくれた「未来の言葉」を信じます」

「そうだね」

「絶対同じ事言うっスよ、黒子っち大好きな高尾っちだし!」

「俺もそう思うー」



「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「絶対高尾っちゲットしてくるんだよー!」

「黄瀬ちん、静かに」

手を振る皆に微かな笑顔で返して、黒子は目を閉じた。

目を開けるとそこは2年前、高尾を想って泣きながら未来に帰った場所。

誰も住んでいる様子はなく、それでも黒子は誰にも見付からないように細心の注意を払いながら高尾の元へと向かった。


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