短編1

□vino tinto
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〜番外編をご覧頂く前に〜

【夢主の紹介&Dameのあらすじ】


主人公は大学を卒業したばかりで、再生屋を目指しているものの就職に失敗、今はグルメフォーチュンのとあるパン屋でバイト中。
ココに一目惚れし、浮かれてはしゃいでいたら高級食材(十黄卵3ダース)をダメにしてしまい、現在多額の借金持ち。
借金を返済するため従姉妹の代わりに夜のお店に出て、ひょんな事からココと知り合う。
今は彼と「お友達」からのお付き合いを始めたところ。
ちなみに、ココの事は売れっ子の占い師だという以外は何も知らない。

(ところどころ分からない部分があるかと思います。それでも構わないと言って下さる方限定になりますが、どうぞお付き合いをよろしくお願い致します)

※ お話の中でお酒を飲むシーンが出てきますが、未成年の飲酒は法律で禁止されています。
飲酒シーンを見ることで飲酒に対する興味を持ってしまう方にはおすすめできない内容となっておりますので、その旨もご了承をお願い致します。



(名前変換)(変換なしだと短編1の主人公と同じ名前)



番外編その1〜【VINO TINTO(赤ワイン)】


待ち合わせの時刻を目前に控え、カイリは指定された場所でふと顔を上げ、鮮やかな夕暮れに不思議な感動を覚える。
夕焼けの空なんて今まで何度も見てきた筈なのに、目の前の景色に心がどうしようもなく動かされるのは、新しく住み始めた街で見る景色だからなのか、それとも…


「すまない、待たせたね」

「いえ!私も今来たところ…です」


あの一件から程なくして、ココは本当にカイリを外食に誘ってきた。
しかもどうやら軽いお茶ではなくきちんとした『お食事』らしい。

待ち合わせ場所に指定されたのは、カイリが勤める店の近くの、とある雑貨屋の前。

彼の店の近くで待つには彼の取り巻きが多すぎるし、彼女の店まで迎えに来てもらうのは店に迷惑をかけるかもしれない。かといって、人目につきやすいどこか別の場所を利用するにも、彼は有名人過ぎた。


「じゃ、行こうか」

「は、はい!」

その結果選ばれたのがこの場所だ。
待ち合わせの場所としてはあまり用いられない選択肢だったが、バイト先からもあまり離れていなかったし、そう目立つ場所でもなかった為、カイリは大した抵抗もなく最初の難関をクリアする事ができた。

(いや、難関って程じゃないんだろうけど、きっと)

それでも、恋愛経験皆無のカイリにとって今の『待ち合わせ』は初めての試練だった訳で、お決まりの台詞である「遅れてごめん」からの「私も今来たところ」は、待っている間ずっと口の中でモゴモゴと何度も繰り返していた。


(大丈夫。今のところは大丈夫!)


カイリは自分を激励しつつ、颯爽と歩き始めたココの背中を見上げる。

暫く考え、拙い知識を総動員させた結果、男性と並んで歩くのはどうかと判断したカイリは、彼の後ろをついて歩く事にした。
しかし、そんな彼女に歩調を合わせてきた彼がどんどん歩みを遅くし、それを見たカイリは更にその後ろに居続けようとペースを落とす。
最後にはお互い牛歩のようになってしまったところで、困惑気味にココが振り向いた。


「カイリちゃん、すまないがボクの前を歩いてくれないかい?」

「え?でも私、道なんて知ら…」

「大丈夫。行き先はボクが指示するから」

「えぇ!?」

「嫌?」

「あの、いやって言うか…それじゃ、失礼と言うか…」

「なら、一緒に並んで歩こうか」

「え?」


思わず見上げて、そこでようやくカイリは今更ながらココの服装がいつもとは違うことに気付く。
ネイビーのシャツに、柔らかいクリーム色のジャケットはなんとも言えず大人の雰囲気だ。

唐突に、カイリは最初の台詞は「今来たところです」ではなく「うわぁ、素敵なスーツですね」であるべきだった事に気付く。

(ううん、素敵な「お召し物」の方が良いかしら?あ、でもそれじゃいつもの格好が素敵じゃないって言ってるみたいに聞こえちゃうかも?でも素敵なんだもの、あぁ、ていうか今の私の格好じゃ全然釣り合わない〜)

「ね?」

「は、はい!」

さっきより少し近い位置から降りてきた囁きに、慌ててシャキン!と背を伸ばして見上げれば、いつの間にかカイリの左横に移動していたココが少し覗き込むようにしてこちらを見下ろしていた。

「君はボクの前を歩きたくない。ボクも、君に後ろを歩かせたくない。なら、こうして並べば問題解決だ」

「…はい」

斜め横を見上げながら、カイリはただ機械的に足を動かす。

(「ね?」って…。「ね?」って……。反則でしょ……)


出だしから色々と、カイリには刺激が強すぎる。


「さ、ここだ。ちょっとした隠れ家仕様になっていて分かりにくいところだけど、味は保証するよ」



そう言って示されたのはレンガ造りの建物で、一見すると普通の一軒家のようだ。
キャンドルをメインにした照明が柔らかな色合いで窓に浮かび上がっている。



夕暮れの美しさに感動していたのも束の間、すっかり日暮れの早くなったこの時期、気付けば辺りはすっかり薄暗くなっていた。

それでも、ふと手元の時計を見れば、そんなに時間が経っている訳でもない。


(あぁ……私の心臓、もつかしら?)


入り口のドアに手をかけ、ゆっくりとそこを開けたココが、カイリを振り返る。

「どうぞ。ここだけはさすがに一緒には通れない。君が先だ」

「あ、りがとうございます……」


(……無理かも…)


カイリはギクシャクと会釈をしながら、店内へと一歩足を踏み入れた。
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