短編1

□las hojas
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【実】


あの日、嵐の次の朝、先に目覚めたのは意外にもカイリだった。

ふと目を覚ますと、目の前にはココのドアップが穏やかな寝息を立てている。
驚いて思わず身じろぎしたカイリは、次に自分の右手が彼と繋がっているのを発見し、慌てて全身の動きを止めた。


嵐は去り、窓の外からは朝日が昇り始めている。
茜色の朱より少し柔らかい、東雲(しののめ)色の光を頬に受けて、緩く目を閉じたココの端正な顔をカイリはそっと見つめる。

静かに、あぁそうか、とカイリは納得した。


彼は太陽だ


物心ついた時からいつも見つめていた、あの暖かい存在
あれと彼は良く似ている


決して私を傷付けない
いつも優しく見守ってくれて
私から何も奪おうとはしない

そして、彼は生と死を繰り返さない

いつまでも輝き続ける太陽だ


「ん…」

少し掠れた声を出してココが眉を寄せた。
カイリは慌てて目を閉じ寝た振りをする。
程無くして目覚めたココはしばらくカイリの顔を眺めてから、そっと繋いでいた手をほどき、ベッドを後にした。

パタンと静かに閉じられた扉の音を確認してからカイリは目を開け、1つ溜め息を吐く。


そうか…本当にそうだ。
考えれば考える程彼は太陽のような人だ。
でもこんな事、絶対に彼には言えないし、言っちゃいけない。

カイリは慌てて独り首を振る。
「あなたは太陽のようです」だなんて、そんな事もし彼に言って、彼の身体がどうにかなってしまったら大変だ。

窓から差し込む、輝きを増していく朝日に少し目を細め、カイリはベッドから離れがたくてひとつ溜め息を吐く。

胸に吸い込んでから吐き出した息は、今まで感じた事のない不思議な感覚をカイリにもたらした。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□



断末魔の悲鳴が洞窟の前方からカイリの耳に飛び込んできた。
その時を迎えた生き物が絞り出す、恐怖と痛み、生への未練と無念の籠った咆哮は、ヒトも動物も皆同じ音を奏でる。

「っ!」

瞬間、カイリの足が止まる。
反射的な反応だ。
しかし彼女はすぐさま再び、声のした方へと走り始めた。


ハントに於いて最も重要とされるもの。それは瞬時に状況を判断し、その場で最も的確な対応を選択・実行する事だ。

その際の判断材料として使われるのは、各人の中にある経験、知識、信念などだが、時には先程のように条件反射で体が勝手に動いたり止まったりする事もある。

たった一瞬の事とは言え、ハントではその瞬間こそが生死を分ける別れ道となる事が多い。


カイリの足がすくむ

しかし立ち止まっている場合ではない


カイリは、ココから与えられた知識を総動員し、自分が今したい事とその理由を出来る限り明確化して、本能的恐怖を押さえ込もうと試みる。


今から自分は何をするか

―小松さんを助ける。

どうやって助けるのか

―私の力を使って、生き物達を動かして助ける。

なぜ、助けるのか

「―コさんにっ…幸せになってもらいたいから!」


数を少なくしていく海蛍を脇目に見ながら、カイリは少し前に見た光景を思い出し、そして確信する。

(小松さん…、彼も太陽だ)

明るくて、笑顔がキラキラしてて
ココさんの背中に乗った小松さんと、その笑顔に微笑み返すココさんの様子は本当に楽しそうだった。


太陽には、きっと太陽が良く似合う

カイリは短く息を吸って鋭く声を出す。

「もっと明るくなってちょうだい!」

残る僅かな海蛍に命じて、最後の輝きを右手に集める。

(絶対に小松さんを助けるんだ!)

さっき聞こえた叫び声、そのおぞましさはまだ耳の奥に残っていて、だからこそ「あれは小松さんの叫び声じゃなかった」とカイリは確信できていた。

ココさんの為に…私の太陽の為に、何としても彼を救わなければ

その為ならもう何も怖いものなんてない


「いた!」

小松の装備品であるキャップライトの光を遂にカイリは発見する。

「えっ!?そんな!?」

同時に、その灯りが照らし出すもう一頭のデビル大蛇も


小松は何か武器のようなものをデビル大蛇に向かって放とうとしていた。

「!!ダメっ!」

それを見てカイリは全身の毛が総毛立つ。

グルメコロシアムに出ていた自分は分かる。
捕獲レベル10以上にもなると、通常の生物に有効な手段の殆どは意味を成さなくなるのだ。

デビル大蛇の捕獲レベルは明らかに10を軽く越えているはず…
なら、あれが最新式のバズーカだったとしても、デビル大蛇を倒すどころか余計に刺激してしまうだけだ。

「小松さん!」

必死にカイリは叫ぶが、小松も相当切羽詰まっているのかその声に気付く様子はない。

彼が武器のような物の引き金を引く。

(ダメっ!)

カイリは無我夢中で声の限り叫んだ。


「デビル大蛇!とまってぇえええ!!」
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