短編1
□las hojas
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【葉】
「うわぁ!見て下さい!ポキポキキノコですよ!カイリさんも食べてみますか?」
「ありがとうございます。…あ、美味しいです。この食感……クラムチャウダーに入れたら面白いかもしれません」
「それ良いですねぇ!ゴールドキャロットなんかも入れてみたらどうでしょう?きっと相性抜群ですよ!」
「そうですね。あとは…伯爵イモに羽衣(はごろも)オニオン…」
「うわぁ、それ最高じゃないですか!さっきのボルハチでも思いましたけど、カイリさんセンス良いですし、三ツ星以上のレストランでもきっとやっていけますよ!」
「そんな、私はそんなつもりは全然……」
「小松くん、カイリちゃん、行くよ」
「「あ、はい!すみません!」」
カイリは慌ててココの側へと小走りに駆けていく。
離れてはいけないと洞窟内へ入る前に言われていたのに、すっかり忘れてしまっていた。
普段であればココの指示に従わないなどということはあり得ないのだが、なにせ今は生まれて初めてのハント中。
実際に野生している食材を見る機会が殆どなかったカイリには、ハントという行為自体も勿論の事、道中で見かけるちょっとした食材との出会いまでもが驚きと感動をもたらしてくれる。
それでも、約束を破ってはいけない。
ココの元へと帰ってきたカイリはそっと下からココの顔を覗き見る。
その顔はいつもと変わらぬ涼しげな横顔だったが、カイリはその奥で彼が何かを隠している事に、おぼろ気ながら気付いていた。
殆ど真っ暗闇の中を、小松のヘルメットに付属するライトの光を頼りにカイリは一歩一歩踏みしめて歩く。
トリコはその嗅覚と元々の身体能力で障害物を察知し、ココは当然のように暗闇を見透かしていつものように歩く。
僅かな灯りに頼らなければならないのは小松とカイリの二人だけだ。
(それにしても…)
まさか彼の視力がここまでだとは思っていなかった。
あまりに平然と洞窟内を進むココを見てカイリは今更ながらちょっと焦る。
小松はカイリよりもっと感心しているようで、そのリアクションを受けてトリコは、この暗闇もココにとっては真昼のように明るく見えているだろうと更に感心を煽る。
カイリは、遂に真っ赤になってしまった。
(じゃあ、あの夜、真っ暗だと思ってたのは私だけで、ココさんには何もかも見えていた…って事?)
あの夜、とは、例の嵐の夜の事だ。
深夜の訪問を受けて、あの夜、カイリはココの部屋へと招待された。
その時は特におかしいとも思わなかったが、あの部屋の灯りが最後まで灯されなかったのはきっと、そもそもあの部屋には灯りなどなかったからなのだろう。
彼の目に写る景色は常に真昼になり得る訳で、真っ暗で見えないだろうと油断していた自分の全ては彼に丸見えだった訳だ。
(そんな、じゃあ、大口開けてあくびをした時の顔も丸見えだった…の、かしら?)
目の前に僅かに浮かび上がるココの背中を凝視しながらカイリは今更のように青くなったり赤くなったりを繰り返す。
「待て、トリコ。ストップだ」
すっかりテンパってしまっていたカイリはその直後、そう言って歩みを止めたココの動きに反応できず、そのまま彼の腰に激突した。
「うぷ!」
「カイリちゃん?」
「どーかしたんです……うわぁぁああぁ!」
「小松お前、1人で何してんだ?気ぃ付けろよ」
「「す、すみません……」」
崖に落ちかけたところをトリコに助けられた小松も、ココの背中にぶつかって尻餅をついたカイリも、小さくなって同時に謝罪した。
「この下は……」
ココの助けを借りて起き上がったカイリが違和感に気付く。
「なんですか?この音…」
小松も何かに気付いて下を覗き込む。
眼下では、なにやらカサカサと音をたてて、生き物が蠢いている。なんだろう?とランプを向けてみたところで小松は硬直した。
「ひっ!ひいぃい!」
そこは猛毒を持つサソリゴキブリの巨大な巣だった。