短編1
□las hojas
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「せっかく買っていただきましたので」
早速着けてみました、とカイリが恥ずかしそうに言えば「うん、正しい判断だよ」とココがその意見を肯定する。
「男は、自分が贈った物を相手が素直に受け取って、嬉しそうに身に付けているのを見るのが好きなんだ」
「……ココさんも、ですか?」
ふと顔を上げて真っ直ぐに聞き返してくるカイリにココはふふ、と笑う。
「そうだね。…もし君に」
そう言ってココはカイリの髪飾りの位置を少し直した。
「もし君に、ボクが男に見えているなら」
そうして、柔らかい笑顔でしっかりと頷いてみせる。
「きっとそうだと思うよ」
隣でトリコが「うへぇ〜」と舌を出した。
「いや〜!おかしいですね、ボルハチを頂いているのに一向に身体の熱が引いてくれませんよ〜!」
小松はアハハと笑いながらその場を取り繕うとするが、途端にカイリが心配そうな顔で「それはおかしいですね。何か料理に不手際があったんでしょうか?…すみません」と謝罪されてしまい、慌ててそれを否定する羽目になる。
「いや、今のはどう考えてもそういう意味じゃねぇだろ?なんだよその突っ込み。天然か?狙ってんのか?」
「天然?…ええと、はい。食材は基本的にココさんの方針で全て天然物を使っています」
「あー、だめだこりゃ」
カイリの回答にそれ以上の意思疏通を図る事を早々に放棄したトリコは、目の前の料理に完全に意識を集中させる。
その食いっぷりは凄まじく、見ている者はその光景だけでお腹一杯になってしまう程だ。
「ええと、小松くん、だっけ?良ければ先に食後のお茶を出すよ」
「あ、ありがとうございます」
ココからの提案はトリコ以外には歓迎されるものだったらしく、満場一致でお茶の準備が始められる。
虹の実について感想を述べながらお茶を淹れるココの後ろを当然のように追い、その動作の全てをじっと見つめ、小さな動きの1つも見逃す事なく傍に佇みながら彼の手伝いをするカイリを眺め、小松は「やっぱり噂の『四天王一の優男』はすごいなぁ」と良く分からない感想を浮かべながらしみじみ感心した。
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「一応言わせてもらうがな、キュウリはあり得ねぇって。オレでも分かるぞ」
今回の訪問の目的であるフグ鯨の捕獲・調理のサポートをココに取り付けたトリコは、早速洞窟へ向けて出発するべく移動を開始しようとして、しかしひとつココに苦言を呈す。
「ただのキュウリじゃないよ、メロディキュウリだ。噛む毎に可愛らしい音がする夏の納涼食材だ」
食事の片付けと留守番をカイリに指示したココは、チラリとトリコを見てそう訂正した。
いやだから、あーやっぱいいわ、と言いかけたトリコだったが、例の髪飾りのもう1つの候補が『ビーナスビ』だったと知って何かが切れてしまう。
「ナスビかキュウリって、お前それじゃ罰ゲームじゃねぇか!」
「失礼だな。『ビーナスビ』はその流線型の美しいフォルムと女神のごとく輝く紫色の光沢から畑のアメジストとも呼ばれている食材だ。どちらも彼女の髪を彩るに相応しいじゃないか」
「アホか!どこの世界に頭にナスビやらキュウリ乗っけて喜ぶ奴がいるんだよ!こりゃ完全にウケ狙いの商品なんだって!真面目に付けるモンじゃねぇに決まってんだろ!」
「まぁまぁ、トリコさん」
遥か頭上で繰り広げられる、言い争いなのかじゃれあいなのか傍目には分かりにくいやり取りを何とかして収めようと、小松は彼らの腰の辺りを行きつ戻りつするが、結局何もすることができずにただオロオロと困惑する。
「あ〜何かこう、ドッと疲れたぜ」
「そうか。なら今日のところはやめておいた方が良いな」
これ見よがしに溜め息を吐いて言ったトリコの台詞に、ココがさらりと皮肉で返す。
へぇ、とトリコは面白いものを発見したかのように少し眉を上げた。
「なんだよ、行くに決まってんだろ?どうした、やっぱりブランクが長すぎて怖じ気づいたのか?それともあれか、カイリと離れるのが嫌なのか?」
「そうじゃない、そんな訳ないだろう」
チラリと小松を見たココは、「…とにかく万全の準備をしてから行こう。小松くんの装備は少し軽すぎると思うよ」と提案した。