短編1
□las hojas
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「ええと、カイリちゃん」
そう呼び掛ければ、意外な事に彼女は首を傾ける。
「いいえ、カイリです」
「?うん、だからカイリちゃん」
「いえ、ですから…」
それっきり俯いてしまった彼女に仕方なくココは質問を続けた。
「ボクは『荷物をまとめておいで』と言ったつもりだったんだけど…」
そう尋ねながら、まさか…と思っていると案の定、彼が予感したままの回答が返ってくる
「すみません。……荷物は特にないんです」
「…そうか」
ふと、自分が『庭』を出た時の事を思い返し、確かにな、とココは納得する。
「まぁ、キッスに乗せられない程沢山あるよりは良かったかな?カイリちゃん1人なら問題なく運べるからね」
「カイリ………ちゃん?」
ココのフォローを受けて、小さくカイリが呟く。
ん?
先程と同じ彼女のリアクションに、今度はココが首を傾げた。
「カイリちゃん?どうしたんだい?」
「……あの」
「うん」
「……」
「……」
だから、なんだよ
と、少し苛ついてしまったココは口元をグッと締める。
「…言いたい事や聞きたい事があるなら正直に言って欲しい。いつまでもここにいるのはボクの本意じゃないんでね」
ココの台詞にハッとカイリが顔を上げる。
すまなそうなその顔に、しまった、今の言い方は品がなかったとココが気まずい顔をすれば、カイリはおずおずと目線を上げ、小さな声で聞いてきた。
「あの、私の名前はカイリなんですが、カイリ『ちゃん』とはどういう意味ですか…?」
「………」
……まいった
ココは無言でカイリを見下ろし、眉間にシワを寄せた。
「ちゃん、は、そうだね、敬称の1つだ」
ちゃん付けで呼ばれた事の無い少女に、ココは敬称の概要を簡単に説明する。
「…けい、しょう」
たどたどしく単語を繰り返すその様子は決してココをからかっている訳では無いようだ。
ココはコクリと頷いた。
「名前の後ろに付けて、相手に対する親愛の情を表現するんだ」
そう説明すれば、カイリの顔が心なしか暗くなった。
「あぁ、もちろん、付けなければ相手の事を好きじゃない、なんて事はないよ。親しく感じているからこそ名前を呼び捨てにするケースもある」
マンサムは彼女を名前のみで呼ぶ
そしてそれは勿論、彼がカイリを良く思っていないからではない。
「ボクは君さえ良ければ『カイリちゃん』と呼ばせてもらうよ。良いかな?」
念の為そう確認すれば、真剣な眼差しでカイリが1つ頷いた。
そして、手ぶらのままの両の拳をぎゅっと握り、ココを見上げて「はい」と応える。
「分かりました、ココちゃん」
「……………」
ココの右肩がガクリと落ちた。